Date:2020/04/09
トヨタ自動車株式会社とトヨタファイナンシャルサービス株式会社は、2019年4月にグループ横断組織として立ち上げた「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」について、その取り組みを加速すると発表した。今後、パートナーとの連携拡大や、実サービスを想定した検証を進め、ブロックチェーン技術の活用用途の検討や早期の社会実装に向けて取り組みを加速させる方針だ。
この記事では会見で語った内容、特に質疑応答で取り上げられた項目についてまとめ、具体的なサービス構想や今後のスケジュールについて詳しく見ていきたい。
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トヨタ・ブロックチェーン・ラボ、ビジネス利用に向けた実証や協業の加速を発表
トヨタがブロックチェーンに着目する背景や、これまでの活動経緯については、上記の記事でも語られているが、今回の会見で「トヨタが伝えたかったこと」として挙げたのは、下記の3点だ。
(1)トヨタ・ブロックチェーン・ラボというグループ横断組織を立ち上げ、取り組みを進めていること
(2)すでに複数の実証実験を行っていること
(3)今回の発表を通じ、さまざまなブロックチェーン事業者とのパートナーシップの拡大を目指していること
取り組みの背景や経緯、取り組みの内容をオープンにすることで、ブロックチェーンのビジネス実装に向けた取り組みを加速させる考えだ。
■組織の構成について
トヨタ・ブロックチェーン・ラボは、トヨタ自動車、トヨタファイナンシャルサービス、トヨタファイナンス、トヨタシステムズ、デンソー、豊田中央研究所、以上6社によって設立された。将来の事業化や、ブロックチェーンをシステム基盤として活用することを想定した構成となっている。また、デンソーはラボの立ち上げと並行して自社技術によるブロックチェーンを活用した技術・製品の展示などを行っており、ラボに参加することで互いの知見の共有を図っている。また、豊田中央研究所は共有された知見をグループ全体に浸透できる技術・研究へと発展させる目的で参加している。
組織の規模については、現状はコアメンバー10人規模で活動していると明かした。また、設立6社以外も参加する勉強会を行っており、それには豊田通商やTRI-ADなどの関係企業も参加し、およそ60~70人の規模で行っているとのことだ。
■ブロックチェーンで何をするのか?
会見では、ブロックチェーンを使った具体的なビジネスについても質問が及んだ。実際の活用については、リリースで発表した通り、下記の4つのテーマを掲げている。
(1)「お客さま」を軸に、グループ内外のID共通化・契約のデジタル化による利便性向上、お客様自身による情報管理の実現、ポイントサービスへの活用等
(2)「車両」のライフサイクルに関わるあらゆる情報の蓄積・活用を通じた、各種サービスの高度化、新たなサービスの創出
(3)「サプライチェーン」における、部品製造、発送などに関する情報の記録・共有による業務プロセス効率化、トレーサビリティ向上
(4) 車両などの資産や権利等、様々な「価値のデジタル化」を通じた資金調達手段多様化への活用と、それによるお客さまや投資家との中長期的な関係構築
質疑応答で具体的なビジネス・サービスについて質問が及ぶと、「サプライチェーン」における活用として挙がっている業務プロセスの効率化やトレーサビリティ向上を例に挙げて説明を行った。
例えば、1台のクルマを完成させるにあたっては、無数の構成部品の製造、さらには材料調達までさかのぼる長大なサプライチェーンが存在している。そして、その中には無数の売買取引などの業務プロセスが含まれており、それに掛かる手間やコストの規模は計り知れない。そんな課題をブロックチェーンの活用によって簡素化できないか、それが今トヨタ・ブロックチェーン・ラボで考えているテーマの一つだ。
さらに、運転履歴や整備履歴、事故の有無などの情報がブロックチェーンにより信頼性を担保されると、中古車のマーケットにも変化が起きる。現状、中古車市場ではディーラー等による査定で一定の品質を保証する形態となっているが、これに運転履歴の情報を加えることで、より信頼度の高い情報を顧客に提供することができる。つまり、ブロックチェーンの活用によって、顧客が安全に、安心してクルマの購入・利用を行うことができるのだ。
■クルマの価値がシフトする時代にこそ期待感
トヨタは会見で、「小さなトランザクション(取引)において、ブロックチェーンの優位性が出てくる」という展望を示した。
現在、世界的にキャッシュレス化が進み、それに並行して起こっているのが「マイクロペイメント(少額決済)化」だという。自動車業界について見てみると、従来のクルマの購入に見られるような、頭金を払い月々ローンを支払うという形態から、モビリティサービスやカーリース、カーシェアなどにおいて、月額固定の料金プランや、アプリ上での少額の「都度払い」も多く見られるようになった。
つまり、一度の取引に掛かる金額の規模が少額化し、頻度が増加する傾向になっている。このような流れはむしろ取引の手間、すなわち「トランザクション・コスト」を肥大化させる。取引の規模が少額化し、頻度が増加することでそれに掛かる人件費、決済に掛かる手数料などが増大してしまうからだ。
クルマ製造のサプライチェーンについて前述したように、こうした業務プロセスの簡素化やコストの削減は、ブロックチェーンに期待されているテーマの一つだ。ブロックチェーンをビジネス実装して課題解決を図るのは、クルマの価値・使われ方が多様化する大変革期において必然的な流れと言えるのかもしれない。
■ MaaS・決済アプリとの連携も視野に
トヨタは知見蓄積を目的とし、「既存のコンソーシアムに積極的に参加をしていく」と会見で語っている。その一方で、今後パートナー拡大を図る中でコンソーシアムの設立へと発展する可能性については、「今は決まっていない」と述べるに留まった。また、今のところ新会社を設立するなどの予定もないという。
また、特にクルマ分野でのデファクトを取る意図があるのかについても、「実際にデファクトとして使えそうなこともどんどんオープンにしていきたい」としている。会見では既存のコンソーシアムへの積極的な参加姿勢を掲げていたが、まずはトヨタのエコシステムを活用して実証実験を行い、有効性の検証とパートナー拡大を進めていく姿勢だ 。
今後の実証については、「2020年度中に今までの検証に加え、さらに実サービスに近い環境(お客様を交えた形)での検証も行う予定」だとしている。特に顧客にとってのメリットが見えるサービスなどの実証を行うとしているが、具体的な内容は未定。今後、アイデアソンやハッカソンの開催も検討しているとのことだ。
また、具体的な取り組みについては、福岡でJR九州や西鉄らと展開するMaaSアプリ「My route」や、昨年開始した「Toyota Wallet」との連携も視野に入れていると明かした。内容について明言は避けたものの、これらのサービスでブロックチェーンをどのように活用するのか、ある程度具体的なプランが固まっていることを示唆した。時期については、「それほど時間を掛けることなく」と早期の実現を掲げ、今年度中に発表を目指す考えを明らかにした。