3月16日にクルマ塾が主催する「レジェンド講演会」が神奈川県にあるマツダR&Dセンター横浜で開催された。マツダの開発を主導してきた三氏の話を直接聞けるとあって、平日にも関わらず、大勢のマツダファンが集結した。
Date:2018/03/27
Text & Photo:ReVision Auto&Mobility編集部
クルマ塾は長年活躍する自動車ジャーナリストを中心に構成される非営利組織だ。その基本理念として「クルマを生活者視点で「捉え」「伝え」「提言」していく場」を掲げる。
昨年開催された東京モーターショー2017では「自動運転とEVの行方を見極める 日本メーカーの強みと弱み」をテーマに、スペシャルディスカッションを開催した。今年は3月から自動車業界に貢献してきたレジェンドたちを講師に招いて講演会を毎月開催予定だ。
その第一弾が3月16日にマツダR&Dセンター横浜で開催された。司会進行はクルマ塾のコアメンバーであり自動車ジャーナリストの山口京一氏と、クルマ塾サポートメンバーで自動車ジャーナリストの吉田由美氏。
今回は、昨年12月にマツダの6代目社長である山本健一氏が亡くなられたこと受けて、はじめに山本氏の足跡が紹介された。山本氏はマツダのシンボルとなったロータリーエンジンの産みの親として知られる。その困難に満ちた開発の軌跡はNHK『プロジェクトX』で取り上げられ、「ロータリー四十七士」などの逸話も有名になった。司会の山口氏は貴重なスライドをたぐりながら、山本氏の功績を振り返った。
数々の困難を乗り越えたレジェンドたち
続いて行われたのが小早川隆治氏の講演会「ロータリー・スポーツよ、永遠に」。小早川氏は1963年にマツダ(当時は東洋工業)に入社し、山本氏とともにロータリーエンジンの研究開発に携わっている。米国では1960年代後半から排ガス規制が強化され、1970年には連邦議会で大気浄化法改正法、通称マスキー法が可決された。当時のロータリーエンジンは炭化水素の排出がやや多かったが、サーマルリアクターの改良によって見事規制をクリア。「マスキー法をクリアできたのはロータリーエンジンとホンダCVCCエンジン、メルセデス・ベンツのディーゼルエンジンだけ。それくらい高度な技術」だと、小早川氏は振り返る。
基調講演二人目はデザイン分野で活躍してきた福田成徳氏。マツダには「感性エンジニアリング」という独自の表現があるが、この元になったのは福田氏が言い出した「ロマンティックエンジニアリング」だという。それは「時代の要求する、形にならないもの」であり、そこから生まれる造形美こそがマツダファンを惹きつけてやまない。講演会当日、会場には福田氏が描いたデザイン画が多数貼りだされ、来場者はその貴重な作品群に見入っていた。
最後の基調講演は日本カー・オブ・ザ・イヤ―に輝いた3代目ロードスターの開発で知られる貴島孝雄氏の「人馬一体スポーツカーの理念」。「感性エンジニアリング」という言葉はここでも登場したが、貴島氏はデザインではなく工学的観点からその重要性を説く。さらに「人馬一体」のコンセプトにも言及。マツダのものづくりに対する一貫した姿勢が感じられる講演だった。なお、貴島氏は現在、数々のモータースポーツ車両開発に携わってきた経験を生かして、山口東京理科大学にて次世代のエンジニア育成に力を注いでいる。
自動運転時代に人間は何をして楽しむか
三氏による基調講演のあとは登壇者全員によるフリートークで、会場からの質問も受け付けた。
たとえば、会場からメーカーがモデルチェンジを行う理由について質問されると、貴島氏は「法改正で必要な安全装備などが変わると、モデルチェンジが必要になる。また、使用していた部品が手に入らなくなった場合もモデルチェンジせざるを得ない」とロジカルに回答。
続く小早川氏が「古いクルマに乗ってもらうことはマツダにとっても大事なこと。古いクルマほど税金が増える日本の税制はおかしい。長く乗ってもらうことはクルマ文化が定着する上でも重要」だと語ると、福田氏はそれを受けて「アメリカは10年で税金が安くなり、クラシックカーを持つことも文化として認められている。クルマと人間の関係をどう考えるかだ」と述べた。
このほかにも会場からは多数の質問が寄せられている。
なかでも興味深かったのは将来技術にかんする話題だ。マニュアルトランスミッション愛好家だという質問者は、これからクルマがどう発展していくのかが気になるのだという。
貴島氏は「完全な自動運転時代になれば、道路に信号はいらないし、クルマはモジュールになる。そのときはクルマを操作する喜びや楽しさを味わうのは別の場所になるのでは」との見方を示した上で、そのとき人間は何をして楽しむのかが問われると語った。
自動運転の普及でステアリングを握らなくても自在に移動ができる社会。小早川氏はそんな社会が到来しても「ロードスターのように、運転を楽しめるクルマに半分は残ってほしい」との思いを語った。福田氏は「ロードスターミーティングに行くと、オートマ全盛のこの時代に、わざわざマニュアル免許を取得している人が大勢いる」と顔をほころばせ、「良いと思うものがあるなら、それを大事にする仲間を増やしていけばいい」と温かなメッセージを送った。
テクノロジーが進化しても、ものづくりに必要な情熱は普遍だ。むしろ、加速度的にテクノロジーが進化するからこそ、利用者であるユーザーとテクノロジーを結び付けるものとして“情熱”“思い”“志”といったものが重要なのかもしれない。
レジェンドたちのトークは尽きることなく、クルマ塾は盛況のうちに閉会した。