自動運転を実用化するために越えなければいけないハードルのひとつが法整備だ。既存の法律は人間の運転手ありきで設計されており、レベル3以上のようなシステムが運転タスクを担う状況を想定していない。法律が技術の進展の足かせとならないように、国内外の関連法の見直しがいままさに進められている。
Text:ReVision Auto & Mobility編集部
Date:2018/11/19
第4回:国際条約と国連作業部会(後編)
(前編はこちらから)
道路交通条約の議論は国際連合・欧州経済委員会の「道路交通安全作業部会(WP1)」や、「自動車の装備と機能の国際基準を検討する作業部会(WP29)」で行われている。
WP1は主に道路交通条約の改正について検討し、運転者が人間からシステムに代わることを前提に、運転者がどのような役割を果たすべきかを議論する場だ。日本は2014年9月からオブザーバーとして参加し、2016年3月から正式メンバーとして参加している。
もう一方のWP29は基準作りの場で、「自動車基準調和世界フォーラム」とも呼ばれ、内部に5つの専門部会が置かれている。そのうち、自動操舵専門家会議と自動ブレーキ専門家会議という2つの会議で日本が議長国を務めており、自動運転の実用化に向けて精力的に活動している。
さて、2014年にウィーン条約の改正案がWP1で採択されたことを受けて、2015年にはWP1とWP29の連携で非公式作業グループが設置され、「自動運転分科会」として自動運転の統一基準などについての議論が始まった。ここでも日本は英国とともに共同議長を務め、ジュネーブ条約の改正に向けて動いたが、前編でご紹介したとおり改正案は頓挫した。
このままではジュネーブ条約とウィーン条約の間に齟齬が生じる。両方とも批准する国も多いことから、両条約の跛行状態は解消されることが望ましい。
そうこうしているうちに、ドイツは次なる手を打った。ジュネーブ条約を批准しないドイツは2017年1月に、ウィーン条約の改正に基づいて、国内法「Strassenverkehrsgesetz」を改正したのだ。名前の訳は「道路交通法」だが、日本の道交法と自動車損害賠償保障法を組み合わせたような内容である。ドイツはこれで自動運転の実用化に向けたハードルをひとつ乗り越えた。
2018年6月、WP1で大きな動きがあった。
議論の主題はセカンドタスクだ。ウィーン条約には「運転者は、常に、運転以外のアクティビティを最小にしなければならない」とあり、ジュネーブ条約には「運転者は、常に速度を適切に維持し、適切かつ慎重な方法で運転しなければならない」とある。
これらのことから、人間ではなくシステムが運転しているときは、条件付きで、人間の運転者が運転以外のアクティビティを行うことができる、という解釈が導かれた。条件とは「それらのアクティビティが、車両システムから運転タスクの移譲(take over)を求める要求に応答することを妨げないこと」「それらのアクティビティが、車両システムの所定の操作と機能に合致していること」の2点だ。
WP1ではこれらのことがウィーン条約だけでなくジュネーブ条約にも適用され、かつ条約改正の必要がないことを確認した。
その後、2018年9月に開かれたWP1の第77回セッションで重要な決議がなされた。10月3日に公表された報告書によれば、ウィーン条約とジュネーブ条約を同等に置き、両条約の加盟国に対して高度自動運転と完全自動運転を推進するよう勧告(Recommendation)がなされたのである(ECE/TRANS/WP.1/165.)。これにより、ジュネーブ条約の改正を経ることなく、この「勧告」に基づきレベル3およびレベル4の自動運転を許容する国内法の整備が可能となったと考えられる。
国際条約を取り巻く状況は5年前と比べて大きく前進しているが、まだまだ課題は残されている。引き続き状況を見守りたい。
【監修】中山 幸二(明治大学専門職大学院法務研究科教授)
◆参考
・国連欧州経済委員会 第77回セッションレポート/英語版(2018年10月3日)
※この記事は2018年10月時点の情報をもとに作成しています。