eモビリティ分野で優れた専門性を有する市場調査会社Power Technology Research社(本社米国)が、Vehicle to Grid (V2G) の実現可能性に関する調査を行った。現在、22カ国において96のV2Gプロジェクトが進行中または完了しており、6,100台の充電装置が使用されている。V2G技術により、ユーザーや電力会社は、送電システムの逼迫時に電気自動車 (EV) のバッテリーから放電することで、発電量と電力消費量の変動を平準化させることが可能になった。市場化された装置もある一方、V2Gプロジェクトはまだ実証段階にあり、その大半が概念実証試験から小規模な商用試験に留まる。V2G普及の阻害要因として、V2G技術に対応する車両モデルの不足、EVバッテリーに与える影響などが挙げられる。当レポートでは、スマート充電とV2Gの違い、V2G普及への障壁を丁寧に解説しつつ、今後のV2G市場の動向をお届けする。
Date:2022/3/25
※このレポートはグロ-バルインフォメ-ションより提供いただき掲載しています。
はじめに
技術革新に伴い、電気自動車 (EV) 向け充電装置の技術も発展を遂げてきた。充電装置の技術は、この20年間で、低電力を流すシンプルなケーブルから始まり、高度な通信プロトコルを搭載した超高速充電装置に至るまで、着実に進化してきた。一般向けの良心的な価格によるEVの生産に新たな関心が寄せられる中、充電インフラ導入の必要性も向上している。一般に”dumb charger”と呼ばれる第1世代の充電装置は、充電装置と車両を接続して、一定の電力量を車両のバッテリーに供給するものである。この種のボックス型充電装置はネットワークに接続されておらず、クラウドとの接続や遠隔管理ができない。設置型の充電インフラであるこの第1世代の充電装置は、主に住宅や職場向けとして使用されている。
V1G - 負荷制御によるスマート充電
EVは送電システムに負荷をかける。EVの増加に伴い、この負荷を制御する必要性が高まっている。スマート充電技術 (V1G) により、電源からEVへの充電時間や充電電力の負荷を制御することが可能となる。スマート充電装置では、データをクラウドにアップロードし、遠隔管理ができるため、電力需要が高いときには送電網にかかる負荷の軽減が可能だ。V1Gは需要サイドの制御手法であり、EVの増加に伴い、負荷制御ソフトウェアの需要が高まっている。負荷制御は、1日あたりの電力需要を平準化することを指し、主にピーク時の電力使用量を削減することを目的としている。個人による充電の場合、電気料金が低いオフピークや、送電網に負荷がかからない時間帯へのシフトも可能だ。電力会社やマーケット・アグリゲーター(Nuvve、The Mobility Houseなど)は、こうした制御充電に関するプログラムに参加している。ここでは、ユーザーに割安な電気料金と経済的インセンティブを提供することで、充電電力の軽減または充電時間の変更を促し、充電セッションを制御している。複数の充電装置を有する施設間では、施設間で電力需要を平準化させるための負荷制御が行われている。これは、充電装置間での負荷の平準化を図り、充電施設への電力供給に影響を与えることなく、EVの充電を効率化するものである。現在、住宅や職場に設置されている充電装置のほとんどがスマート充電である。
V2G充電の基礎知識
スマート充電 (V1G) をさらに進化させた技術がVehicle to Grid (V2G) である。V2G技術では、自動車のバッテリーから送電網に放電でき、充電時間や電力量、電力潮流の制御が可能だ。ユーザーや電力会社は、自動車の充電時間をずらすだけでなく、送電システムの逼迫時に、自動車のバッテリーから電気を放出することができる上、発電と電力消費の平準化を図ることが可能となる。このようなV2Gの特性ゆえ、電力市場では費用対効果の向上だけでなく、電気料金上昇の抑制も見込める。さらには、EVの所有者が収入を得ることも可能になる。また、EVを太陽光発電などの再生可能エネルギーの短期貯蔵装置として使うこともできる。例えば、日中に充電し、その後、充電した電気を送電網へ戻すことも可能だ。この仕組みは、Vehicle-to-Home (V2H) やVehicle-to-Building (V2B) にも応用されている。また、V2Gに対応した車両は、負荷周波数制御のために、送電網の安定に寄与する予備のスピナーの役割も果たす。V2Gでは、電力系統を通じてEVを識別する通称「プラグ&チャージ」と呼ばれる技術が必要である。この技術では、RFIDカードや携帯アプリが不要になり、車両と充電装置との接続がなされると同時に、充電が自動的に開始される。このシステムは、車両と充電装置間で自動かつ安全なデータ交換を規定しているISO15118規格に準拠している。
V2G技術は、オンボードAC充電、オフボード型DC充電のいずれにも適用可能である。オンボードV2G充電では、双方向の電力伝送を実現させるための専用のAC充電装置が必要となるだけでなく、車両側の電気系統においても、双方向の電力伝送を行うための改良が求められ、多額な費用を要する。オランダのユトレヒト地域では、2019年から地域全体で双方向型AC充電の実証実験が開始され、すでに400台以上の充電装置が設置されている。地域全体の一晩分の電力を賄うには、たった8,500台の双方向型のEVで十分である。しかし、現時点で双方向型AC充電に対応している車種は、Renault Zoeのみだ。オフボード型DC充電装置を使用すれば、V2Gの導入は容易ではあるが、コストもかかる。この種の充電装置を提供しているEVSE(EV向け充電装置)メーカは世界で20社以上存在する。同充電ソリューションを導入する場合、V2G充電のハードウェアが必要なのは充電ステーション側であり、車両側はわずかな改良のみで済む。現在、双方向型充電が可能なDC充電装置はCHAdeMOコネクタのみであり、その実用性は限定的だ。業界では、2022年末までにCCS(コンバインド充電システム)コネクタのISO15118規格のリリースが見込まれている。これにより同技術の採用が増加するだろう。
オフボード型V2G充電は、効率性、導入の容易性、低騒音性、充電の高速性の観点から、オンボード型V2G充電と比べて望ましい選択肢である。さらに、V2G充電装置は、車両を長時間駐車する住居、アパート、職場などの駐車場や、輸送業者での導入に最も適しており、最適な電力は30kW未満で済む。この充電装置の市場はまだ小さく、世界で6,000台の充電器が設置されているにすぎない。しかし、Power Technology Research社は、EVによる電力需要の拡大に伴う送電網への負荷増大により、今後10年間でオフボード型V2G充電技術が新たなトレンドになると予想している。
V2Gの分野では、自動車メーカ、DSO(配電事業者)、TSO(送電事業者)、アグリゲーター、充電装置メーカの4つが主要プレーヤーとして積極的に関与している。図2はV2Gプロジェクトに積極的に参加している主要プレーヤーをまとめたものである。
V2G普及への障壁
V2Gの普及には、まだ多くの障壁がある。まず、同じ電気出力を有するAC充電装置に比べ、DC充電装置の価格は高く、多額の投資が必要となる。それゆえ、V2Gの対象は、金銭的に余裕があるニッチ市場に限られる。また、双方向充電が可能なEVのモデルが少ないことも、当分野の発展を妨げている。次に、バッテリーの寿命も普及への課題に挙げられる。バッテリーはEVの中で最も高価な部品であり、充電サイクルも限られている。バッテリーの早期廃棄による損失を上回る補償が得られない場合、EVのドライバーが限られたバッテリーの寿命を無駄にしたくないと考えるのは妥当だ。最後に、信頼性の高い双方向の情報通信を実現するためには、様々な当事者間におけるコミュニケーションプロトコルの標準化と確立が必要である。特に、トランスポート層は、車両テレマティクス経由の通信シグナルに依存し、充電の指示を出したり、デバイスが指示を理解し実行するためのプロトコルを送ったりする役割を担っている。
V2Gプロジェクトは、まだ試験段階にある。プロジェクトの多くは概念実証試験から小規模の商用試験に位置付けられ、主要なエネルギーサービスを提供している。図3は、各プロジェクトが提供するサービスと、その実施国をまとめたものである。
今後の見通し
充電インフラに使用される技術は進化し続けている。バッテリーベースのソリューション、動的負荷マネジメント、デマンドレスポンス、V2G技術、ワイヤレス充電などを取り入れた充電ソリューションはすでに利用可能であり、実現可能に向けた実証実験が行われている。V2Gの主要アプリケーションは利用可能であるものの、普及を加速させるためには、実用化を阻むハードルに対する適切な対処が求められる。
引用元:
EV (乗用車EV、eLCV、eトラック、eバス)・EV充電器の世界市場分析 - 30ヶ国、予測シナリオ、市場予測、成長機会:2018年~2026年
発行 Power Technology Research 出版日2021年10月1日
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