モビリティに起こりつつある変化 ~前編~ 「ReVisionモビリティサミット」1日目から


いま、モビリティに何が起こっているのか。それを探るため、Revision Auto&Mobilityは、3月に第5回ReVisionモビリティサミットを開催した。コロナ禍で社会的に大きな変化が起こる中で業界を広い視点で捉えるために、CASE・MaaSからスマートシティ、物流までテーマを広げ、幅広い企業・専門家からの最新アップデートを目指した。イベント開催からしばらく時間が経過したが、まだまだ感染症の影響が続く中で、あらためて1日目・2日目を振り返り、各講演やディスカッションから浮かび上がったメッセージをくみ取ってみたい。

Date:2021/05/20
Text:ReVision Auto&Mobility 友成匡秀

 

サミットでの講演の様子。会場開催とオンライン・ライブ配信を同時進行で実施した

 

現状へ鋭く切り込む提言や危機意識は各講演の随所にみられた。アビームコンサルティングの古川俊太郎氏はコロナ禍での人々の行動様式や移動ニーズの変化をデータで示し、「デジタル技術をしっかり活用し、AI・機械学習でダイナミックな需要の変化を予測することや、1社だけではない業界を超えたエコシステムの構築が必要」と訴えた。また、インテルの野辺継男氏は欧州・米国・中国のバッテリー産業政策やESG投資の状況をひも解きながら、「日本でバッテリーEVが少ないと、(産業育成のための)投資が回らなくなる」と危機感を示した。

先の見通しが混沌としている中でも、「進化を止めてはならない」という強いメッセージは、すべての講師の言葉から感じ取れた。なかでも強い意志を感じさせるという点で印象に残ったのは、本田技術研究所の杉本洋一氏の講演だった。

 

自動運転開発への強い意志と愚直さ

ホンダは自動運転レベル3を搭載した新型「レジェンド」を発売したばかりだった。レジェンドについては既に多くのメディアに試乗体験も含めて記事が出ているため詳細は必要はないと思うが、杉本氏の講演で強く印象に残ったのは、レジェンドに搭載されている「ミニマル・リスク・マヌーバー(MRM)」という機能だ。これは、クルマがドライバーに運転操作を受け渡そうとした際、ドライバーが反応しない場合などに車両を自動で安全に停止させるというもの。

派手な機能ではないが、ドライバー・モニタリングやクルマ周囲の状況把握、周辺車両への周知、高速道路での減速制御など、様々なシステムの連動は技術的に簡単に作り込めるものではないはずだ。にもかかわらず、ホンダでは、この機能を実装することを、国土交通省の「自動運転の安全技術ガイドライン」(2018年9月)に定められるより随分前の2016年には決めていたという。

杉本氏は「自動運転技術はヒューマンエラーを排除して事故を大幅に削減できる可能性がある。先進安全技術の次のステージへ踏み出す」と話した。こうした安全に対する強い意志と一貫した開発姿勢こそが、世界で最初にレベル3を実現できた大きな理由だろう。愚直さとチャレンジ精神を感じる。領域は異なるが、ホンダは4月に電動化へ大きく舵を切ることも発表した。ぜひチャレンジする姿勢を持ち続けてほしいと思う。

 

サミットでのパネルディスカッション。来場できない講師とリモートでつないいで議論した

 

“How Safe is Safe Enough?”

自動運転レベル3のクルマが国内の公道を走行できるようになった背景には、昨年4月の道路交通法と道路運送車両法の改正法施行がある。日本では省庁の縦割りや規制緩和の遅れが指摘される中で、自動運転の法整備において世界をリードしているのは心強い。

午前のパネルディスカッションで、ジャーナリストの清水和夫氏は、「2014年にSIP(内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム)が立ち上がり、当時から2020年のオリ・パラを一里塚として、それまでに何とか自動運転技術を世の中に出していこうと、産官学オールジャパン体制で取り組んできた」と語った。業界が一体となった取組み、協調領域を広げようとする継続的な努力が、実を結んでいる。

協調領域としては、今後、車のソフトウェア化が進むなかで、無線通信アップデート(OTA)やセキュリティもますます重要になる。マツダの山﨑雅史氏の講演では、今年2月に設立され、サイバーセキュリティの情報共有・分析・対応に取り組む業界組織「Japan Automotive ISAC」の活動が紹介された。山﨑氏によると、「サプライチェーンや車のライフサイクルへの対応は個社だけで閉じていない。セキュリティの協調領域は広く深い」。講演では国連WP29での法制化の動きに絡み、OTAに関するISO規格を日本の業界主導で策定していることも紹介された。ぜひ、こうした業界が一丸となった取組みはこれからもスピード感をもって進めてほしいと思う。

ただ、その一方で、自動運転技術や次世代車の開発について、どれだけ安全性を高めればよいのか、という点も考えなければならないとは感じた。自動運転を搭載したホンダ・レジェンドはリース販売のみだが価格は1千万円を超えている。多くの人たちが購入するには難しい価格だろう。安全は当然、最重要だ。しかし、最終的には先進技術を普及価格帯で展開できければ、社会へのインパクトも限定的で、持続的な技術開発も難しくなってしまうだろう。

午前のパネル・ディスカッションでも触れられた「How Safe is Safe Enough? (どれほどの安全水準なら十分に安全か?)」というテーマ。たとえば、業界の協調領域として、パッセンジャー・ビークルにおいて、この問いに自動車業界全体で一定の答えを出していけないだろうか。アップルカーの開発もささやかれている中で、安全性に関して自動車業界が一体となって積み重ねた議論は、巨大IT企業への大きな対抗軸になりうると感じる。


データをどうクリエイティブに使うか

安全性向上へのデータ活用に関しては、トヨタ自動車の池田幸洋氏がクリエイティブなアプローチを開示して見せてくれた。センサーを数多く使って認識能力を高める、というアプローチではなく、車両から上がってきたデータを分析することで新しいアルゴリズムを作り、車両制御につなげる方法だ。具体的には、運転手のアクセル踏み間違いを防ぐために、アクセルを強く踏む状況をパターン分析し、「坂道」「追越し」「信号発進」などの状況以外でアクセルが強く踏まれた場合には加速抑制をかけるシステムを作った。

クルマの開発にデータサイエンティスト的な視点が求められているということが、この講演から垣間見ることができた。池田氏は、「クルマがますます高度化・複雑化する中でデータの有効活用が(開発の)カギとなることは間違いない」と強調した。どのデータをどう使ってクルマの価値を高めていくのか、コネクテッドカーから上がってくるデータの中には、安全や利便性向上、コスト削減へのヒントがまだまだ隠されているだろう。

 

協調領域や企業間・業界横断による連携した取組みの必要性を訴える講演も多かった

 

安全への寄与という点では、NTTドコモの中村武宏氏は、セルラーV2Xを使ったユースケースとして、高速道路の出口付近での事故を回避する事例など複数を紹介。業界団体の「ITS情報通信システム推進会議」で進めている安全運転・自動運転支援の研究開発・実証の進捗を説明し、参加者に「関心のある方は、ぜひ一緒に議論させていただきたい」と呼びかけた。

これ以外にも、サミットでは多くの特徴的な技術が紹介された。HERE Japan の橘幸彦氏は、様々なデータ・レイヤーを持ち開発環境を提供するデータ・プラットフォームを提示した。ルネサスエレクトロニクスの永井健一氏は、ソフトウェアに主なフォーカスを置き、仮想化技術や多様なWEB言語を活用した開発環境について紹介した。

これからの時代、クルマの価値向上には、1社だけで閉じるのではなく、多様な企業の強みを、時には業界を横断して取り入れ、組み合わせることが重要になってくる。いま何が自社に必要な技術か、それを知るためには、様々な場面でコミュニケーションを増やし、業界内外におけるディスカッションを続けることが何より大事なのではないだろうか。

 

これからの時代の「愛車」とは

サミットを通して、テーマとしては、先進技術・デジタル技術を活用してどうクルマの利便性を高めていけるか、という内容が多くを占める。ただ、元々、クルマの魅力というのは、それだけではないはずだ。最後のパネルディスカッションでは、これからの時代の「愛車」とはどのようなものか、といった視点から議論があり、興味深かった。

パネリストの日産自動車の長沼直樹氏は、「どのような体験がお客さんのワクワク、感動体験を生み出せるか」という視点から、クルマの体験を「New(新しさ)」「WOW(驚き)」「Convenient Usage(利便性)」「レトロ案件」とう4象限に分けた議論を提示。また、クルマ自体の特徴・魅力について、「工業品でありながら『愛車』という言葉にあるような、人に愛着がわかせるようなところ」と述べた。その上で、「そこに新たな利便性を掛け合わせて価値を上げていくところが、これからOEM・ベンダーが協業して作り上げるものではないだろうか」と語った。

 

1日目最後のディスカッションでは、「愛車」や「ワクワクをもたらす体験」について議論

 

マツダの山﨑氏は、「クルマを自分が自由自在に操るとき、フロー状態、楽しさが生まれ、そこから『愛車』という言葉が生まれてくる」という見方を提示。また、デンソーの萩原一彦氏は、これからのクルマの進化の方向性として、「2極化するのではないか。嗜好品のようなクルマは多様化する一方で、走れればいいという車も出てくるかもしれない」と述べつつ、「VR技術などを使えば移動の必要がなくなるという話もあるが、移動は人間の欲求の一つ。クルマは家電とは同じにはならない」と話した。

Cerence Japanの村上久幸氏は音声認識技術やサービス開発の観点から、「クルマを運転しながら、外部のものを音声で説明してもらったり、観光ツアーガイドを音声対話と組み合わせる、などはWOW体験になるのではないだろうか」と提案した。こうした話から感じたのは、音声アシスタントのようなサービスは、クルマにパーソナライズドな体験を生み出す有力な技術の一つではないだろうか、ということだった。

このパネルディスカッションでは、筆者がモデレータを務め、後半は自動運転車の協調領域やデータ共有における課題などへ話題は進展した。前述した通り、こうした協調領域の取組みはますます重要になってくることは間違いないが、それと対比する形で、競争領域として「クルマでどのようなワクワク体験を生み出せるか」「次世代のユーザーエクスペリエンス(UX)」などついて、ディスカッションでもう少し掘り下げてもよかったかもしれない。

ReVision Auto&Mobilityでは、近く個人所有車(Personally Owned Vehicle)に主なフォーカスを当てたイベントも開催予定だ。こちらのイベントでは、そのようなUXや競争領域といった部分ももう少し掘り下げてみたいと思う。

また、第5回モビリティサミットの動画は既にサミット参加者への公開期限は終了しているが、ReVisionプレミアムクラブ会員は継続的に視聴可能となっている。アーカイブの録画視聴に関心がある方は、ぜひ本ウェブサイトのホームページから会員についてもご覧いただければと思う。

 


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