なぜIT企業が自動運転に参入するのか


グーグル、ウーバー、アリババ、百度(バイドゥ)など、自動車業界以外の企業による参入が相次ぐ自動運転マーケット。なぜ彼らは歴史ある業界に挑むのか。DeNAとソフトバンクの実例からその真意を探る。

Date:2018/05/18

Text & Photo:モビリティジャーナリスト&モータージャーナリスト

森口将之

IT企業の参入が相次ぐ自動運転市場

 

60年代のモータリゼーション再び

 DeNAとソフトバンクと言えば、昨年のプロ野球日本シリーズを戦った両雄である。しかし、この両社は自動運転の世界でも両雄になりつつある。

 そもそも自動運転は、自動車メーカー以外の動向にも注目が集まっている。火付け役はグーグル(現ウェイモ)で、同社の行動が契機となって自動車メーカーが研究開発を加速した。

 その後も配車アプリで名をあげたウーバー・テクノロジーズなどの米国IT企業や、欧州のシティモビル2プログラムを源流とする無人電動バスのイージーマイル、ナビヤなどが話題になってきた。中国の滴滴出行や百度などの動きも気になる。

 自動車の歴史の中で、ここまで業界外からの参入が目立っている状況は異例だろう。変革の時代という言葉を実感する。

 なぜこれまで自動車の世界に参入してこなかったIT企業が、自動運転に興味を示しているのか。それには日本の両雄にスポットを当てるのが分かりやすいのではないかと考え、ことあるごとに取材をしてきた。

 最初に名乗りを上げたのはDeNAだ。まず2015年5月、自動運転技術開発会社のZMPと組んで、「ロボットタクシー」と名付けた自動運転タクシー事業実現に向けた合弁会社を設立すると発表した。

 それ以来、現在まで同社の自動運転部門のリーダーを務める執行役員オートモーティブ事業本部長の中島宏氏はこの席で「遅れてきたIT革命」という言葉を使い、国全体を左右する巨大産業だからこそコミットしておきたいという気持ちがあるうえに、クルマの世界もハードウェアからソフトウェアへの移行という新しいステージに入りつつあるという2点が大きいと語っている。

 引き合いに出したのは1960年代のモータリゼーションだった。当時はクルマだけでなく、レストランやスーパーマーケットなど、周辺産業を含めた発展があって、カーライフが生活を豊かにした。中島氏は今回も同じ流れにあると感じており、社会構造の変化を伴った成長を予想しているので、チャンスがあると決断したようだ。

 その後、モータリゼーション2.0という言葉は一般的になる。DeNAは日本でいち早くそのムーブメントに注目し、参入を決意したIT企業と言うことができる。

 それからの足取りもIT企業らしく早かった。

 まず同じ2015年9月には、スマートフォンのアプリによる個人間カーシェアリングサービス「Anyca(エニカ)」を提供開始。個人所有の自動車を、使わない間は他人に貸し出しても良いオーナーと、必要な時に好みの自動車を使いたいドライバーをマッチングした。

DeNAロボットシャトル(イージーマイルEZ10)

 翌年7月には仏製無人運転小型電動バスのイージーマイルEZ10を「ロボットシャトル」、物流大手ヤマト運輸と組んでの自動配送を含めた物流改革を「ロボネコヤマト」と名付けてプロジェクトを立ち上げた。

そして2017年1月には、ZMPとの業務提携解消をアナウンスすると、自動車メーカーの日産自動車と手を結び、無人運転車の商用活用を目論んだ実証実験を開始すると発表した。“今年中”という当初の計画は実現しなかったものの、2018年3月には日産の本社がある横浜市で、「イージーライド」として実証実験を行っている。

ロボネコヤマトの実証実験車両

 この間にDeNAは、ウーバー・テクノロジーズが先鞭をつけたタクシー配車アプリを開発し、「タクベル」の名前とともに横浜市・神奈川県タクシー協会とともに実証実験を実施している。

 たった2年間でタクシーから商用車までさまざまな分野に進出した積極性もさることながら、それぞれのプロジェクトに分かりやすいネーミングを施し、それ自体をブランドとして育てていこうという方針に興味を抱いた。

DeNAが提供するタクベルの画面

 

ホンダとのAI分野協業でも注目

 一方のソフトバンクが自動運転の世界への参入を宣言したのは2016年3月。自動運転技術を研究・開発する東京大学発のベンチャー企業、先進モビリティと合弁で新会社SBドライブを設立したのが始まりだった。

 昨年、代表取締役社長兼CEOの佐治友基氏に、なぜソフトバンクは自動車の世界に参入したのが伺ったところ、同社が社内で実施した『中期戦略アイデアコンテスト』がきっかけだったという。佐治氏はここで、ソフトバンクの通信技術、ヤフーのサービスやデータを交通と連携させた「動くIoT」を応募したところ2位に入り、会社設立に至った。つまり上層部の方針ではなかった。

 SBドライブは創業直後、いくつかの市町村と連携協定を締結すると、2017年3月には沖縄県で、先進モビリティが自動運転化した日野自動車の小型バスで実証実験を実施。7月からDeNAと同じ仏製無人運転小型電動バスのナビヤ アルマを持ち込み、東京都内や北海道で実験走行を始めた。

SBドライブが運用する仏製無人運転小型電動バスのナビヤ アルマ

 今年に入ってからは羽田や福岡の空港内で、先進モビリティが自動化した日野の小型バスで実証実験やデモンストレーションを実施。一方、東日本大震災で被害を受けた福島第一原子力発電所構内の移動としてナビヤ アルマを導入している。

 この間SBドライブには同じソフトバンクグループ内のヤフー(Yahoo! JAPAN)が出資しており、同社が展開するサービスや保有するビッグデータの活用を検討していくと発表している。

 ソフトバンクグループ内には、他にも自動車と関わっている会社がある。たとえばロボット人材派遣サービスや感情生成エンジン開発などを手がけるcocoro SBは、本田技研工業(ホンダ)とAI分野での共同研究を開始しており、昨年ホンダが発表したコンセプトカーNeuV(ニューヴィー)に搭載した「感情エンジンHANA」を開発している。

 沖縄の自動運転バスにはPepperを車掌として乗務させており、この面でソフトバンクロボティクスやcocoro SBなどと連携した。今後もグループ会社との関係は大切になっていくと佐治氏は語っていた。

 

公共交通はビジネスとして無理?

 ただし、SBドライブ単体をDeNAオートモーティブ事業部と単純な比較はできない。

両社とも欧州のシティモビル2プログラムから生まれた仏製無人運転小型電動バスを走らせている点は共通しているものの、さまざまなモビリティシーンに展開しているDeNAに対して、SBドライブはバスに限定している。

 これについては、日々の移動に困っている人を支援したいという気持ちが根底にあるようで、自動運転の導入は乗客の安全性を考えた結果ということだった。

 もうひとつ、DeNAが日産自動車やヤマト運輸など、大手民間企業とのコラボレーションが目立つのに対して、SBドライブは東京丸の内では三菱地所、羽田空港では全日空とともに試乗会や実証実験を行なってきたものの、合同でプロジェクトを推進するような動きはない。

SBドライブが実証実験を行った羽田空港バス

 これは両社が持つ情報量が関係しているのではないかと考えている。自動運転の公共交通運行には需要予測などのためにビッグデータが重要になる。その点でヤフーを持つソフトバンクグループは強い。逆にDeNAは、提携相手になる日産やヤマトなどのデータも活用していくことになるだろう。

 一方で両社に共通している点もある。国や自治体との連携を進めていることだ。政府では2020年までの自動運転実用化を目標に掲げており、内容は「官民ITS構想・ロードマップ」などで発表されている。

 2月に内閣官房IT総合戦略室が公開した「『官民ITS構想・ロードマップ2018(仮称)』改定へ向けた論点について」には、内閣府のSIP事業、国土交通省と経済産業省が共同で行うラストマイル自動運転、国土交通省の道の駅等を拠点とした自動運転サービスなど、合わせて36件の実証実験が紹介されている。

 そこには自動車メーカーだけでなく、自治体、大学などさまざまな事業者が名を連ねている。中でも目立つのがSBドライブで、5つの実証実験に参加している。DeNAの名前は1カ所だけだが、かつて運用していたロボットタクシーを含めれば3件になる。事業者の記載がない道の駅の事例についても、両社は関わっている。

 日本では公共交通でも民間企業の運営が主流であり黒字経営が求められるが、先進国の中でこの状況は異例である。欧米では学校や図書館などと同じ公共サービスとして位置づけ、税金主体の運行で地域の移動を支えている。

 しかし先進国の中でも少子高齢化と地方の過疎化が著しい中で、公共交通をビジネスとして続けていくのは無理があり、公共サービスという形態に転換すべきという声が、この国でも多くなってきた。そこに自動運転が登場した。

 バスやタクシー会社の経費は人件費が半分以上を占めており、自動化によって経営状況の好転が見込め、運転手不足も解消する。つまり地方の移動問題解決に効果がある。そこにいち早く気づいたのがDeNAとSBドライブだった。よってその後、国主導で始まった実証実験に多く関わるようになったと見ている。

 我が国の地方の公共交通は前述したように、ビジネスとしての成立は難しい。スマートフォンというインフラの上でさまざまなサービスを展開してきたIT企業のほうが親和性は高いと考えている。そこにDeNAとソフトバンクという大企業が参入してきたことは、今後の地方社会を考えるうえで好ましいと思っている。

SBドライブの正着制御の実証実験。バス停にぴったりと添うことがユニバーサルアクセスにつながる

 

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