高齢化社会の“ゆっくり”自動運転


「高齢者が元気になるモビリティ社会」の実現に向けて研究開発に取り組んでいる名古屋大学未来社会創造機構は3月14日、未来のクルマ・人・社会の在り方を考えるシンポジウムを開いた。同大学東山キャンパスに集まった多数の一般参加者を前に、大学教授やジャーナリストらが活発な意見交換や研究発表を行った。

Date:2018/04/03

Text & Photo:友成匡秀(ReVision Auto&Mobility編集部)

 

 シンポジウムのテーマは、「人がつながる“移動”イノベーション ゆっくり自動運転のチャレンジ」。同大学は、文部科学省と科学技術振興機構(JST)の革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)の採択を受けて研究開発を行っており、シンポジウムではCOIに関する過去4年間の研究成果も各担当者が発表した。

 最初に、名古屋大学理事・副総長で未来社会創造機構 機構長の財満鎭明(ざいま・しげあき)氏、名古屋大学COI拠点長でトヨタ自動車未来創生センター担当部長の畔柳(くろやなぎ)滋氏ほか文部科学省担当官らが挨拶に立った。財満氏は10年後の日本社会のあるべき姿を見据えて産官学連携で研究開発に取り組んでいること、9年間のCOIプロジェクトが5年目を迎えるにあたって社会実装に向けて取り組みを進めていることなどを説明した。

 

モビリティは目的ではない

 続いて対談講演「これからのモビリティと持続可能なコミュニティ」が行われ、自動車ジャーナリストで内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム推進委員会構成員の清水和夫氏、一般社団法人日本カーシェアリング協会の吉澤武彦代表理事が参加した。

自動車ジャーナリストで内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム推進委員会構成員の清水和夫氏

 清水氏は、東日本大震災の際にホンダ・トヨタ・日産自動車の車の走行データを通信で集めることで「通行実績情報マップ」が作られたことなどを紹介。また、将来のEVシェアリングや人工知能(AI)を使った人と車のコミュニケーションなど未来イメージをスライドで示しつつ、レベル4(高度自動運転)の実証実験が各地で進められていることなどを解説した。

 また、こうした最新の動きを示しつつ、「移動する先に何もなければ移動する必要もなくなる。小さなコミュニティ社会が多様性をもって、いろいろなところにあれば、お年寄りも含めて移動ニーズが生まれてくる。モビリティは手段であって目的ではない。未来社会をつくるとき、何をしたいのかということを考えておかないといけない」と述べた。

カーシェアリングによるコミュニティづくり

 続いて吉澤氏が、東日本大震災の被災地の石巻市を拠点に行っている、車の共同利用(カーシェアリング)によるコミュニティづくりの取り組みを紹介。石巻市では震災で6万台の車が流され、人々の移動が困難になった上、仮設住宅や復興住宅では高齢化や孤立化の問題が深刻化している。そこで吉澤氏は企業から車を集めて、住民が買い物や旅行などに共同で使える車両として導入し、その運営のサポートとコーディネートを行っているという。

一般社団法人日本カーシェアリング協会の吉澤武彦代表理事

 現在、参加住民の平均年齢は72歳。住民たち自らがルールを決めて予約やキー管理などを行っており、こうしたグループが市内で7カ所あることを紹介した。カーシェアリングによって住民同士のきずなが深まったといい、「アンケートでは、一般的な復興住宅では『仲のいい知り合いがいない』という割合が半分くらいだが、カーシェアリングに参加している人たちはこれが10%に減少する。『移動に関する課題が解決された』という声がほぼ100%になった」と述べた。

 二人の講演に続いて、セッション・モデレーターを務める名古屋大学の平岡敏洋特任准教授、シンポジウム全体の司会を務めたCOI 副研究リーダーの青木宏文特任教授を交えたパネルディスカッションが行われた。

地域の多様性を保つためのモビリティ

 平岡准教授は「石巻市のカーシェアリング現場で会話させていただいたとき、おじいちゃん、おばあちゃんが生き生きとしていた。何でも自動化していくのが本当に幸せなのか、技術開発して社会実装をしていくとき、現場のことを考えてビジョンを作らないといけない」と話した。

 議論は自動化の技術レベルやユーザーとのコミュニケーションのあり方、これからの街づくりをどう考えるか、といったテーマへと進み、過疎化対策として都市の中心部に人口を集約させるコンパクトシティ化についても触れられた。

 吉澤氏は、「お年寄りは長年住んできた愛着のある土地に最後まで残りたいと思うはず」と指摘。清水氏はモビリティへの活発な取組みが行われている石川県輪島市や福井県永平寺町を例に挙げつつ、「モビリティがうまく進化すれば、みんなが多様性ある街に住むことができる。地元の強いリーダーシップも大切」と語った。

 青木特任教授は、愛知県豊田市の中山間地域である足助地区でも高齢化率が高まり、独居老人の方が増えていることなど県内の状況について説明。「病院、スーパーなど、地域の中心から高齢者の家までのラストワンマイルをゆっくりとした自動運転でつなげようと取り組みを進めている。また高齢化が進むオールド・ニュータウンといったところもあり、乗合バスのような方法も取り入れていきたい」と述べた。

 その後、COI研究リーダーの森川高行教授をはじめ、8人の研究者から詳しい研究成果発表があった。森川教授は、アンケート結果に基づいて、高齢者は社会参加や外出頻度の増大で元気になることなどを紹介。また、研究者からは、高齢者の運転データベースづくりなどの基礎的な研究から、運転の認知・判断・操作の支援、さまざまな乗り物をつなぐ移動やコミュニティのサポートなど幅広い取り組みを実施していることなどを説明した。

 名古屋大学では既に豊田市や春日井市などで実験車両を使った「ゆっくり自動運転」の公開実証も行っており、これから社会実装を本格化していく。

◆名古屋大学 COI「人がつながる  “移動”イノベーション拠点」

 


関連記事

大学発企業ティアフォーの“壮大な実験”

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です