EV充電規格の日中共同開発の狙いとは


電気自動車(EV)の急速充電規格で、国を超えた協調の動きが起こり始めた。日本発の急速充電規格CHAdeMO(チャデモ)を推進するチャデモ協議会は、中国の国家標準規格GB/Tを推進する中国電力企業連合会と、2020年を目指して高出力の統一規格を共同開発する。その狙いはどこにあるのか、チャデモ協議会事務局長の吉田誠氏(日産自動車渉外部担当部長兼グローバル技術渉外部主管)に話を聞いた。

Date:2018/12/17
Text & Photo:ReVision Auto&Mobility編集部 友成匡秀

 

EV普及には充電環境の充実が欠かせない

 一般的に、EVを充電する方法は大きく分けて2種類ある。家庭や職場のコンセントから時間をかけて充電する普通充電と、外出先などで素早く充電する急速充電だ。40キロワットアワー(kWh)のリチウムイオン電池を搭載した日産リーフの場合、6キロワット(kW)の普通充電では充電ゼロの状態からフル充電まで約8時間かかる。一方で、チャデモの50kW急速充電器を使うと、40分間で80%まで充電することができる。

 中国と共同開発することになったのは、後者の急速充電に関する次世代規格だ。それも、これまでチャデモが策定してきた50kWや150kWとは桁違いに高出力な、最大900kWのまったく新しい超急速充電規格となる。2020年の仕様策定を目指すという。

 今回の共同開発の意図について、吉田氏はこう話す。

 「電池容量が50~60kWh程度のEVなら、現在の50kWの急速充電器でも十分対応できる。だが、高級車やスポーツカー、バス、トラックのような電池容量が100~200kWhのEVになると、より高出力の急速充電器が必要になる。今回の新しい規格の開発は、こうした高級車・大型車のために高出力の規格を作ろうというもの。これを中国側と組んで開発できる意味は大きい」

 

一定時間でできる充電の量を増やす

 チャデモ協議会と中国電力企業連合会は、2013年ころから充電に関する研究を共同で続けてきた。そうした経緯から、今年2月になって、現在の急速充電器とは出力もコネクタの形状も異なる新しい充電規格を作ろうと、中国側から正式に提案があったという。もとより、GB/Tは当初からチャデモの技術支援を受けて作られ、コネクタ形状やCANを使った通信方式なども仕様が近い。

 ただ、高出力の充電器ができれば、現在のEVの充電時間を大幅に短縮できる、というものではないようだ。50kWの急速充電器を500kWへと出力を10倍にすることで、現在40分かかるリーフの急速充電時間が5分以内で済むのかというと、そうではない、と吉田氏は言う。

チャデモ協議会事務局長 吉田誠氏

 「充電を、ペットボトルに水を入れるものと考えてもらえばイメージしてもらいやすいだろうか。水道の蛇口から入れていたものを消防車のホースにしたところで、ほとんどは受けきれずにこぼれてしまう。ただし、バケツや風呂釜をイメージしてもらえばと思うが、大容量電池にはより早く貯められる効果がある。これは電池の充電性能に関わっている。技術的に一つの電池を1時間で充電するのを1Cと呼んでいて、今の技術限界は3Cと言われている。つまり、満充電まで最短で20分。それより短時間で満充電にする技術は電池のほうにはない。今回の共同開発の一番の目的は、充電時間の短縮ではなく、一定時間でできる充電の量を増やすこと。大型の電池を積む車両を想定したものとなる」

 

コンボ陣営に呼びかけるには今がチャンス

 中国との統一規格の開発は、チャデモ協議会が意図する世界的な充電規格の標準化へ道を開くきっかけとなるかもしれない。現状では、互換性のない複数の充電規格が存在しており、このままでは自動車メーカーにとってはコスト増になり、EV普及への阻害要因となる可能性がある。

 これまで、充電規格に関しては、主に日本のチャデモと欧州発のコンボ(Combined Charging System/CCS、Combo)が標準化を競い、中国では独自規格のGB/Tが後発ながら中国国内で大きく設置数を延ばすなど、各陣営同士の主導権争いが激しかった。このほか、米テスラの独自規格もあり、世界的な標準化には遠い状況が続いていた。

 吉田氏は「中国との提携は、チャデモの面的な広がりと、GB/Tの数的な優位性といった、お互いの強みを生かすことができる。まだ新しい規格ができているわけではなく、日中で共同開発をしている段階なので、コンボ陣営に呼びかけるには、今がチャンス。それぞれの陣営が譲るべきところを譲り、従来方式との互換性も担保しつつ、新しい規格を作っていければと思う」と話す。

 充電器設置数はGB/Tが約22万基と圧倒的だが、設置はほぼ中国国内だけに限定されている。チャデモは約2万2000基と数ではGB/Tの10分の1に過ぎないが、日本を中心に欧米など70カ国で設置され、地域的な広がりが強みとなっている。コンボは欧米中心に7000基が存在し、欧州ではチャデモとコンボの両規格に対応できるよう2種類のケーブルが付いている充電器も増えてきている。

 

品質、拡張性、互換性における日本の強み

 吉田氏は、「中国のEV市場はこれから大きく伸びる。その中国市場へのアクセスが容易になるのは日本企業にとって大きなプラスになる」と、日本陣営の利点を強調する。特に、充電器を製造するメーカーの視点に立つと、日本が強みを発揮できるのは、1つは作り込み品質、2つ目は拡張性、3つ目は互換性、というキーワードになるという。

 「作り込み品質とは、安全性や高い品質の確保。高出力の充電器になると、コネクタやケーブルの品質は非常に重要で、ゆがみや隙間があると火花が出たり、熱が上がったりしてしまう。こうした作り込みの技術は、日本が優れている部分。また、電池を分散電源として利用し電力グリッドに送るといった拡張性の技術や、複数の会社の充電器を複数の自動車メーカーのEVに充電してきた互換性に関する経験も生かせる」

 一方で、中国との連携に、技術流出の懸念や、中国製の廉価な充電器に市場が席巻されてしまうのではないか、といった不安の声があることも、吉田氏は承知している。だが、「そこは問題とは考えていない」と言う。

 「充電規格にハイテクはない。作り込みのノウハウは各社が持っていて開示するものではない。また、作り込み品質以外の、充電器とクルマがやり取りする、いわゆる『対話』部分の単位や数字を合わせていくことは、技術流出とはいえず、むしろ共有したい部分。廉価な充電器が出てくる可能性はあるが、高い品質がないものは規制しなければならないし、市場にも淘汰される。いわば、品質でのフェアな競争になるはず」

 

充電行動を意識させないことが理想

 今後、自動運転が進化し、シェアリングや鉄道・バスとの連携も含めたMaaSと呼ばれる新しいモビリティ形態が世界的に広がる気配がある。「MaaSの進化において、EVはエネルギー補充において有利な点が多い」と吉田氏は言う。

 車両への充電は、コネクタから行うだけではなく、高速道路の特定レーンでの非接触充電や、信号待ちの間に信号機からの充電、バス停でパンタグラフを使って超高速充電など、さまざまな方式やアイデアが出されている。都市インフラとの連携や、都市設計自体とも関わってくる話になる。非接触充電はまだ競争領域となっているが、もし各社から協調領域として進めたいという要望が上がってくるようなら、充電インフラの整備推進団体という顔も持つチャデモ協議会としては、標準化に取り組みたいと吉田氏は考えている。

 「これからEVが普及するには、車に乗る人たちに充電行動を意識させないようにすることが理想。たとえば、カーシェアなどではユーザーに充電行動を意識させないこともできる。これからは6kWの普通充電と50kWの急速充電だけではなく、クルマの使われ方の多様化に充電のほうも対応すべきと思う。互換性があって、すべてのクルマが共通の充電行動ができ、用途によって多様な充電方法に対応できる、そういった将来を目指している。自動運転が入ってくると、充電の自動化も進めないといけない。普及団体のチャデモは、世の中の発展を阻害しないようにしなければと考えている」

 

◆参考

CHAdeMO(チャデモ)協議会

 


吉田氏が出演するウェビナーは2018年12月19日(水)17:00スタートです。
ウェビナーではより深く掘り下げた内容をお伺いする予定です。
詳細は下記URLよりご確認ください。

◆ReVision Premium Club 第9回ウェビナー詳細

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