トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)、自動運転分野での進化の概要とビデオを公開


 米国で人工知能等の研究開発を行う、トヨタ自動車の子会社、トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)は、家庭内生活支援ロボットを含む、自動運転技術やその他プロジェクトの取り組みを公表。また、「ガーディアン」と「ショーファー」という二つの自動運転モードを現したビデオも公開した。その概要をまとめた。

2017/10/3

住商アビーム自動車総合研究所 代表取締役社長
大森 真也

 

 

トヨタ・リサーチ・インスティテュート自動運転実験車改良版 (トヨタ自動車発表資料より)

 

 自動運転技術について、トヨタは前回、今年3月に発表した「プラットフォーム2.0」に続いて、今回、早くも最新版「プラットフォーム2.1」を発表した。TRIによると、同社は、この試験用プラットフォームの開発と並行して、自動運転車両が物体や道路を検出しながらより正確に走行環境を理解し、より安全な走行経路を予測することのできるディープラーニング・コンピュータ認知モデルについても、格段の進化を遂げたと言う。

 これら新たなアーキテクチャは、より高速・高効率、かつ高精度な性能を備える。物体認識に加えて、ディープラーニング・モデルの予測能力は道路標識やレーン表示といった道路上の基本要素を認識しつつ、自動運転機能の根幹となるデジタル地図の生成をサポートする。

 プラットフォーム2.1にて、トヨタはルミナー社製ライダーを新たに採用した。このライダーは長距離の測定範囲を持ち、立体的な物体の位置をより正確に把握できる。また、初めて、視野調整機能を備え、最も認識が必要な方向に焦点を合わせることができる。

 

プラットフォーム2.1ではルミナー社製ライダーを新たに採用 (トヨタ自動車発表資料より)

 

 ルミナーのライダーは現行のセンサーを上回る高い解像度と黒い物体を認識する能力を持ち、例えば、黒いタイヤ(反射率10%)ならば現行のセンサーが40m以内でしか認識できないのに対し、200m超でも認識できる能力を有している。また、初めて、リアルタイムで、最も必要とされる箇所に画像解析能力を集中することにより、自動運転車両はクルマや人、その他物体を、離れていてもクリアに把握することができるようになった。

 ルミナーは5年前に設立され、新たなライダーのアーキテクチャの開発を開始。システムに使う全ての構成部品、つまり 、レーザー、受信機、スキャニング装置、そして処理用電子機器の全てについて、徹底して新しいアプローチを採った。この急進的なアーキテクチャは、たった1台のレーザー、受信機、超高速スキャナーしか必要としない。今日のライダーが必要とする部品の僅か数分の一だ。

 この新しいライダーシステムが現行のセンシングシステムと合致して360度をカバーする。TRIは将来に向けた革新的技術を持つサプライヤーをさらに増やしていく方針だ。

 プラットフォーム2.1にて、TRIは前席助手席側に第二のコントロールコクピットを設置した。このコクピットからも 、バイワイヤシステムにより、ステアリング、アクセル及びブレーキペダルといったあらゆる操作が可能だ。この仕組みにより、研究開発チームはたとえ難しいシナリオの中でも、人間ドライバーと自動運転システムとの間の車両制御の効率的な受渡し方法を調べることができる。加えて、第二のコントロールコクピットは、熟達した人間ドライバーから初心者のドライバーへのコーチングを通して、マシンラーニング・アルゴリズムの開発も支援する。

 

実験車改良版では助手席側にもステアリング、アクセル、ブレーキを設置した (トヨタ自動車発表資料より)

 

 更に、TRIは、スクリーン、カラー照明、音声を通じて一貫したユーザーインターフェースを活用し、それを「ガーディアン(高度運転支援)」や「ショーファー(自動運転)」にひもづけることで、クルマがどの自動運転段階にあるのかを示す統合的なアプローチを設計した。また、センタースタックに配備されたマルチメディアスクリーン上に、クルマが実際に「観る」全てのものを表す点群を表示することで、ドライバーによる状況認識を強化することも実験中だ。

広範に進化したハードウェアとソフトウェアとを用いたプラットフォーム2.1は、「ガーディアン(高度運転支援)」と「ショーファー(自動運転)」というTRIが掲げる自動運転に向けた2つのアプローチを、1つのテクノロジースタックを使って協調してテストできる開発ツールだ。

⚫︎ 「ガーディアン(高度運転支援)」では、人間ドライバーがクルマを制御する一方で、自動運転システムも並行して運行し、危険な状態をモニターし、必要となれば乗員を保護すべく運転に介入する。
⚫︎ 「ショーファー(自動運転)」はトヨタ流SAEレベル4/5であり、車内には乗客しか居ない。
これら両方のアプローチ共に、同じセンサー、カメラからなるテクノロジースタックを活用して開発される。

 このプラットフォームには、「ガーディアン(守護天使を意味する)」システムがあり、運転手が注意散漫、または居眠り運転をしていないか等、状況をモニターし、もし、道路のカーブに反応しない等の際にはすぐにアクションを起こす仕組みを備えている。そのような場合、まず第一にシステムが運転手に警告を行い、次いで道路のカーブに沿って安全にブレーキとステアリングを作動させて運転に介入する。「ショーファー(お抱え運転手を意味する)」テストのシナリオでは、クローズドなコースを、路上の障害物を検知しつつ走行し、障害物があれば、隣の車線をもう一台のクルマが同じスピードで走っている中でも車線変更を行う。

 リアルワールドでのテストに加えて、TRIでは、正確で安全なコンピュータシミュレーションも使用する。

 

 ロボティクスと人工知能: TRIは、ロボティクスと人工知能においても進化を生んでいる。屋内での様々な作業で人の生活を支援する領域では、未来のロボットがモノを検知し、人間と同じ様に器用に掴んで操作し、落下やダメージを避ける機能を開発した。

 TRIは、ロボット開発にコンピュータビジョンや人工知能を活用している。ロボットが人間と物体を検知し、その場所を認識することで、人間からの指令があれば、その物体を取り除くことも可能にした。ロボットは、物体が除去されたことを検知し、データベース上にその情報をアップデートする。さらには、人間の顔を認識し、個人の顔を識別することもできる。

 ロボットが現実の世界で体験し得る、ありとあらゆる状況を物理的に試験するのは不可能なため、TRIでは実際の試験で得られたデータを活用しながら、シミュレーションの精度向上を図ってきた。

 加えて、TRIは、クルマのキャビンに人工知能を用いて乗員に安らぎを与える新たなコンセプトを追求している。TRIは、ドライバーの姿勢、頭の位置や視点、感情を検知し、ニーズや運転上の障害を予測する車内用AIエージェントを用いたシミュレーターを開発した。例えば、もし、ドライバーが飲み物を手に取り不快な表情を示したのをシステムが検知するや、AIエージェントはドライバーが暑いと感じているとの仮説を立てて、エアコンを調節する、ないしは、窓を開ける。もし、眠気を検知した場合には、エージェントがドライバーにコーヒーを飲むように、またはコーヒーショップに向かうように促す、という風に。

 

 白書: トヨタは自動運転開発に関する包括的なレポートを白書として公表した。この白書は、同社のテクノロジーに対する哲学や、今後の研究プログラム、及び短期的な製品計画についても触れられている。

白書では、トヨタの自動運転開発に関する「ガーディアン」と「ショーファー」という二つのコンセプトに関するサマリーに加えて、「Mobility Teammate Concept」、つまり、人とクルマが同じ目的である時は見守り、ある時は助け合う、気持ちが通った仲間の様な関係を持つ、というトヨタの人とクルマに関する信念についても述べられている。

 

 ビデオに現れたショーファーとガーディアン: TRIはプラットフォーム2.1における「ガーディアン」と「ショーファー」という二つの自動運転モードを現したビデオを公開した。ビデオでは、クローズドなコースで多くの試験運転を行う中、プラットフォーム2.1とともに培われたTRIの自動運転のための革新的かつ安全な数々のイノベーションが示されている。

 プラットフォーム2.1とは、一台のクルマで、「ガーディアン」と「ショーファー」、二つのシステムを、同じテクノロジースタックのセンサーとソフトウェアを使ってテストするツールだ。「ショーファー」は、SAEレベル4/5に相当するトヨタ流テストレベルであり自動運転システムが全てのドライビングタスクの責任を持つ。一方で、「ガーディアン」モードでは、自動運転システムが、人間ドライバーを事故から守るセーフティネットとして機能する。

 

 ビデオでは、ショーファーシナリオは、クローズドな道路空間を走り、数々の路上障害物の周りを航行する様子が表されている。

⚫︎ 「干し草の積荷を載せたトラック」では、クルマがどうやって走行路上の思いがけない障害物を発見して、それを避けつつ、安全な車線に移るかが示されている。
⚫︎ 「クルマによる前方封鎖」では、別のクルマが隣の車線を同じスピードで走行する中、前方に、立ち往生している一台のクルマを発見する。そこで、システムは、隣のクルマに先を譲り、安全に車線変更をした上で、立ち往生したクルマを通り越した後に元の車線に戻って走行を続ける。

 ガーディアン・テストでは、危険が予想される局面に直面した際に、クルマと搭乗者を守り、ドライバーが適切に反応しない場合には適宜アクションを取る。ガーディアンでは、システムが、ドライバーの注意が散漫になったり居眠りしたりするのを検知すべく目の状態を監視し続ける。

⚫︎ 「眠気に襲われたドライバー」のシナリオでは、ドライバーがカーブに向かった際に突然眠りに落ちるのを検知する。ドライバーが目を閉じて、道路のカーブに従ってハンドルを切らなくなると、システムが介入し、走行車線をキープすべくハンドルを操作する。
⚫︎ 「出現」のシナリオでは、ドライバーには見えない前方の障害物を如何にしてシステムが発見するかを示している。前方のクルマが道からはみ出した時、ガーディアンシステムが前方に障害物があることを検知し、ドライバーからステアリング操作を引き継ぎ、ドライバーが再度確認運転できる状況になるまでクルマをコントロールする。

 

 

“トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)、自動運転分野での進化の概要とビデオを公開” への1件のコメント

  1. 1505177658 より:

    特にショーファーの検証についてだが、今までのようなアルゴリズム検証やソフトの結合検証、モジュール検証なことはできなくなることに対して全く新しいアプローチをしようとしているようだが、機能安全の点から果たしてAIプログラムの検証を確率論ではなく、一意的に答えのないシステムに対してどう考え、消費者にどのように説明し納得してもらうのか、法曹界、保険業界も含めて社会が受容するレベルまでどのように持っていくのかを見せて欲しい。ISO26262やIATF16949の要求にどのように応えていくのかについても明確にしてほしい。

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