高齢化が進むニュータウンはMaaSで再生なるか


成長著しい昭和の時代を象徴するニュータウン。しかし、一気に団地ができ、一斉に住民が押し寄せた街はいま高齢化と人口減少に苦しんでいる。クルマ社会を前提とした街づくりは住民の移動を阻む。そんな地域が求めるモビリティとはどのようなものか。2つのニュータウンの事例を紹介する。

 

Date:2019/2/25
Text & Photo:モビリティジャーナリスト&モータージャーナリスト
森口将之

丘陵地を開発して作られた高蔵寺ニュータウンはこのように上下移動が多い

高齢化の街に見る交通社会の課題

 昔はニュータウン、今はオールドタウン。最近このような言い回しを聞くことがある。

 ニュータウンを日本語に直せば新興住宅地となるだろうか。高度経済成長時代真っ只中の1960年代に開発が始まり、1970年代にかけて全国各地に出現した。同じ時期には日本住宅公団(現在のUR都市機構)が建設した団地、鉄道会社が開発した田園都市なども数多く出現した。

 しかしこうした住宅地は、1960〜70年代に当時のヤングファミリーが住み始め、そのまま暮らし続けているという例が多い。その結果、近年は高齢化が目立つようになっている。ゆえに最初に書いたような表現が使われるようになりつつあるようだ。

 既存の集落と異なるのは、短期間に開発が行われ、多くの住民が一挙に住みはじめたために、年齢層の広がりがないことだ。つまり若い人が高齢者を助けるような状況が生まれにくい。

 しかも当時の都市計画のトレンドを反映しているので、自動車交通が主役で、交通事故減少の観点から歩車分離が徹底されており、歩行者を地上より高い場所で移動させる方式が多用された。一方でまだエレベーターは完備されておらず、団地であれば4〜5階まで階段で行き来するのが一般的だった。

 ニュータウンが建設されたのは主として郊外であり、丘陵地を開拓して建設した場所も多かった。上記のような交通計画もあり、上下移動の多い街となっている例が多い。運転免許証を返納しようかという高齢住民にとって辛いことは容易に想像できる。

 

 幼少期に団地住まいだった筆者はこうした問題が前から気になっており、昨年後半から今年にかけていくつかのニュータウンを訪ねることにした。

階段移動を強いる箇所もある高蔵寺ニュータウン内のバス停

 

電動パーソナルモビリティの可能性は?

高蔵寺ニュータウン中央の商業施設はマイカーで訪れる住民が多い

 

 まず紹介するのは名古屋市の隣、愛知県春日井市にある高蔵寺ニュータウンだ。日本住宅公団が初めて手掛けたニュータウンで、今から約50年前に入居が始まった。東京都の多摩ニュータウン、大阪府の千里ニュータウンと並ぶ、日本における大規模ニュータウンの先駆けである。

 高蔵寺ニュータウンはJR東海・中央本線、愛知環状鉄道が乗り入れる高蔵寺駅が最寄り駅だ。しかし多摩や千里のように、駅周辺にニュータウンが広がっているわけではない。駅から中心部までは2km以上あり、上り坂が続く。つまりアクセスはバスがメインになる。

 かつては名古屋鉄道小牧駅と桃花台ニュータウンを結ぶAGT(いわゆる新交通システム)、桃花台新交通ピーチライナーが、高蔵寺ニュータウンを経由して高蔵寺駅に伸びる計画があったようだが、2006年にピーチライナーそのものが利用者低迷で廃止されてしまった。

 バスはニュータウンの地域別に系統が分かれていて、ニュータウン内が終点ではない系統も多く、初めて訪れた人間にとっては理解し難い。バス停がニュータウンより一段下にある場合も多く、降りると階段やスロープを使うことになる。バス停間の距離が長めであることも気になった。

 ニュータウン内には循環バスが走っており、こちらは停留所をきめ細かく設定していたものの、駅へ行くには路線バスに乗り換えなければならない。

 ニュータウン内は大通りをまたぐように歩道橋が整備してあり、歩車分離がなされているので安全ではあるものの、端から端まで約4kmと広いことや、バスが上記のような状況ということもあり、多くの住民はマイカーで移動しているようだ。上下移動が苦痛なのか、道路を横断する歩行者も目についた。

ショッピングセンター脇に停車中のニュータウン内周回バス

 しかしニュータウンの高齢化率は春日井市の平均を上回っており、高齢ドライバーによる事故も懸念される。

 春日井市では高蔵寺ニュータウンについて人口、世帯数、高齢者数、高齢化率を公表している。それによると、2005年10月1日は人口4万6911人、高齢化率15.3%だったのに対し、2018年10月1日は人口4万2958人、高齢化率34.5%となっている。

 同じ調査日での春日井市全体の人口と高齢化率は、2005年10月1日が29万5802人で16.2%、2018年10月1日が31万1784人で25.4%となっている。市全体では人口が増えているのに対し高蔵寺ニュータウンは減少しているのだが、高齢化率はともに上昇しているものの、2005年では高蔵寺ニュータウンが市平均を下回っていたのに2019年では大きく上回っている。

 こうした状況を受けて高蔵寺ニュータウンでは最近、電動パーソナルモビリティを使った歩行支援モビリティサービス、自動運転の電動カートや自動車を用いた地域内移動の実証実験を行っており、現在は高齢者向け配車サービスの実証実験も行うなど、さまざまなトライをしている。

 このなかで個人的に注目したいのは歩行支援モビリティサービスだ。前述のように歩道は整備されているので、スマートフォンを活用した位置情報や遠隔操作を組み合わせれば、高齢者向けのシェアリングサービスとして有効だと思っている。

 それとともに駅へのアクセス性向上も望みたい。ニュータウンの人口は減少に転じているとはいえ、春日井市全体の15%を占めているのだから。しかも高蔵寺駅から名古屋駅まではJRで30分。都心へのアクセスという点では多摩ニュータウンより便利ではないだろうか。

 最近は団地をリノベーションする若者が目立っており、高蔵寺ニュータウンでも実例が見られるが、彼らは自動車の所有にあまりこだわらない。先進国都市部の若者のマイカー離れは、昨年訪れたヘルシンキでも話題になった。公共交通で暮らせるまちづくりは若者にとっても価値があると考えている。

上下移動のある歩道橋を渡らず道路を横断する住民の姿も目についた

 

東急流の郊外型MaaS、一日も早い実現を

 続いて紹介するのは東急電鉄田園都市線たまプラーザ駅北側に広がる横浜市青葉区美しが丘1〜3丁目だ。ニュータウンとは名乗ってはいないが、東急が多摩田園都市として約60年前に開発した新興住宅地である。バブル景気が始まろうというころ、テレビドラマ『金曜日の妻たちへ』の舞台となって注目を浴びた地域であることを覚えている人もいるだろう。

 しかしここでも人口減少と高齢化が危惧されている。東急沿線では2035年をピークに人口が減少していく見込みで、生産年齢人口の減少と高齢化の進行が予想されている。横浜市青葉区の統計では、生産年齢人口比率はすでに2010年から減少しており、高齢者人口比率は逆に上昇を続けている。

 そこで2012年、横浜市と東急は「次世代郊外まちづくり」の推進に関する包括協定を締結した。上記のような課題を住民、行政、大学、民間事業者の連携や協働によって解決していくプロジェクトだ。その第1号モデル地区として選定されたのが美しが丘1〜3丁目だった。

 こちらも高蔵寺ニュータウン同様、丘陵地に開発されており、アップダウンが続く。美しが丘1丁目および2丁目が駅に隣接しているところは高蔵寺とは異なるが、駅の近くは商業施設や集合住宅が中心である。2丁目と3丁目の1戸建てが多い地域はバスに頼ることになるが、バス停まで坂道を上り下りする場所も多い。しかも商業施設は駅前に集中しているので、歩いて買い物に行ける場所は少ない。

たまプラーザ駅と近隣の住宅地を結ぶ路線バスも東急が運行する

 

 そこで東急では“郊外型MaaS”と銘打ち、東京都市大学や未来シェアの協力を得て、この地域に4種類のモビリティを導入することにした。ハイグレード通勤バス、AIオンデマンドバス、パーソナルモビリティ、カーシェアの4種類を用意しており、約200人強の実験参加者を公募し、今年1月から3月までサービス評価や行動範囲の変化などを調査している。

スマートフォンアプリでAIオンデマンドバスの乗降場を示した状態

 ハイグレード通勤バスは、たまプラーザ~渋谷駅間の通勤定期券を持つ利用者に向け、平日朝に同区間を走るWi-Fi やトイレを完備した着座保障の通勤バス。オンデマンドバス、パーソナルモビリティ、カーシェアはスマートフォンのアプリで乗車予約をするもので、前2つは地域住民、最後はカーシェア車両を配置したマンション住民の移動手段として用意した。

 筆者は今年1月に現地で開催された説明会に参加し、AIオンデマンドバスとパーソナルモビリティの実証実験に立ち会ってきた。

 いずれも他の地域で実験を行っている同名のモビリティと似ており、スマートフォンで利用予約や希望時刻などの入力を行う。AIオンデマンドバスの場合は17カ所の乗降場を、パーソナルモビリティは次世代郊外まちづくりの情報発信の場である美しが丘2丁目のWISE Living Labを、それぞれ拠点として利用する。

郊外型MaaS実証実験でAIオンデマンドバスに使われるハイエース

 車両はAIオンデマンドバスがトヨタ自動車のハイエース、パーソナルモビリティは本田技研工業のMC-βだった。高齢者がより利用しやすいように、乗降口が低く幅広い車両の登場も望みたい。実験終了後は結果を分析し、今後の事業展開を検討するとのことだった。

 同じMaaSであっても、複数のモビリティをシームレスにつなぎ合わせる都市型MaaSとは異なる概念であるが、MaaSによって提唱されたICT活用によって、マイカーに頼らなくても便利で快適な移動を提供するという目標は近いものがある。

 それだけに、いち早く実証実験の段階を脱し、本格的なサービスに移行することが望まれる。さらに鉄道とも連携してターミナルまでシームレスに行けるサービスも用意されれば、高齢者だけでなく若者にとっても住みたくなる街になるのではないだろうか。

 

郊外型MaaS実証実験でWISE Living Labに配備されたホンダMC-β

AIオンデマンドバスは細くアップダウンの多い住宅街の道を走る

◆森口将之氏 連載記事

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