電動化を目指すラストワンマイル配送車


eモビリティ分野で優れた専門性を有する市場調査会社Power Technology Research社(本社米国)が、ラストワンマイル配送車の電動化に関する調査を行った。この10年間で、Eコマースは毎年約15%の成長を遂げている。中でも、Covid-19による消費者行動の変化は、ラストワンマイル配送車両の需要を一気に押し上げた。また、トラック輸送業界では近い将来、配送車両が完全に電動化される可能性が高い。世界経済フォーラム(WEF)においても、2030年までに都心部を走る配達用車両が36%増加すると予測している。当レポートでは、世界の主要フリートオペレーターの取り組みを紹介しつつ、ラストワンマイル配送車の電動化について予測をしている。

Date:2021/10/18

※このレポートはグロ-バルインフォメ-ションより提供いただき掲載しています。

 

 

ゼロ・エミッション目標達成に向け、加速する電動化

輸送業界は、世界の温室効果ガス(GHG)排出量の約4分の1を占めている。地球温暖化の懸念が高まる中、世界規模で排出量削減に向けた政策の策定が進められている。世界的なゼロ・エミッション目標は、乗用車だけでなく、商用車、バス、トラック、海運業など他の輸送形態にも影響を与える。同様の取り組みは航空業界にも及んでいるが、そちらはまだ概念的な段階にすぎない。

その中で特筆すべき取り組みが、2017年にクリーンエネルギー大臣会合(Clean Energy Ministerial, CEM)が始めた「EV30@30」キャンペーンである。28カ国と欧州委員会が参加するCEMは、電気自動車イニシアティブ(Electric Vehicles Initiative, EVI)を打ち出し、2030年までに全自動車販売台数における電気自動車の販売台数の割合を30%にすると決定した。この数値は、個々の国の目標ではなく、CEM-EVI参加国全体としての目標である。CEM参加国は、温室効果ガスの83%近くを排出する一方、世界のクリーンエネルギー投資の80%以上を占めている。EV30@30キャンペーンには、各国の中央政府や地方政府、企業、非政府機関、提携するイニシアティブが参加している。

Power Technology Research社の調査によると、オーストラリアの電気自動車(乗用車)は2018年から2020年にかけて54%増加した。同時期に、ドイツでは75%増加し、米国は58%、次いで英国は55%増加している。増加率が最も高かったのはドイツであった一方、増加率が最も低かったのはオーストラリアであった。

 

図 1 2018-2020年のオーストラリア、ドイツ、イギリス、米国の電気自動車(乗用車)の普及推移
出典: Power Technology Research

 

Covid-19がEコマース業界に与えた影響

直近の10年間、電気自動車業界は毎年15%近くの驚異的な成長を遂げてきた。Covid-19は多くの企業にマイナスの影響を与えたが、電気自動車業界にはプラスの影響をもたらした。その理由として、消費者の購買パターンが変化し、オンラインショッピングがニューノーマルとなったことが挙げられる。こうした変化を通じて、同日配送または翌日配送、ダイナミック・オンデマンド・サービス、ハイパー・ローカル・ショッピングの需要が喚起された。ハイパー・ローカル・ショッピングとは、近隣の店、レストラン、市場、ショッピングモール、その他製品やサービスの提供者などから購入することを指す。人々の関心はショッピングの利便性に移り、企業は顧客満足の推進を図っている。その結果、迅速で安全かつ効率的なラストマイル業務への需要が著しく高まった。Eコマースの急激な浸透とラストワンマイル用配送車両の急増は、化石燃料の排出量ならびに消費量の増加を招いた。世界経済フォーラム(WEF)によると、2020年にはEコマースに関連した配送が25%増加し、2030年には都心部で36%増加すると予測している。

 

主要フリートオペレーターによる電動化計画

フリートオペレーターは、商品の輸送などに使用する車両を所有したり、企業その他組織へ車両のリースを行ったりしている。こうした大小サプライチェーン企業やフリートオペレーターの多くは、環境に配慮した物流を既に実践している。

  •  Eコマース最大手のAmazonは、「気候変動対策に関する誓約(Climate Pledge)」にいち早く署名し、2040年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すと発表した。同社は、米国の電気自動車メーカーRivianに10万台の電動配送車を発注し、各地で実証実験を行っている。また、欧州での配送用車両として、Mercedes-Benzに対して1,800台の電動配送車を発注した。
  •  FedExは、2040年までに宅配便の集配車両を全て電動化する計画を立てた。2040年までに電動化、持続可能エネルギー、炭素隔離技術に20億米ドルを投資する予定である。同社はすでに約3,000台の電気自動車を導入しているが、先日、General Motorに電動の小型商用車「EV600」を500台発注した。
  •  UPSは、英国の電気自動車メーカーArrivalに出資しており、北米と欧州で使用する電気自動車を1万台発注した。最初の1万台は2020年から2024年にかけて導入されることになっているが、同社はこの期間中に1万台を追加発注するオプションも有している。また、トラックの分野では、Tesla製セミトラック125台を発注したほか、Daimler Trucksとクラス8セグメントのEVトラックの共同開発を行っている。
  •  IKEAも宅配におけるゼロ・エミッション化を目標として掲げている。IKEAの目標は、2025年までにラストワンマイル配送のうち25%を電気自動車で行うことだ。IKEAは先行してニューヨークに40台、ロサンゼルスに50台の電動配送車を配備した。同社はこの目標を達成するために、電動配送車も有するFluid Truckのオンライン車両レンタルプラットフォームを活用し、必要に応じて電気自動車を借り受けている。
  •  DHLは、同社の持続可能に関する目標に沿って2050年までに輸送関連の全排出量ゼロを掲げている。現在、18%の車両が電動化されており、2030年までに全車両の60%を電動化する予定である。最近、同社はカーボンニュートラルに関するロードマップの強化を行い、CO2排出量を削減するために今後10年間で80億米ドル以上の投資を行う予定だ。投資対象は、ゼロ・エミッション車両に限らず、航空用の代替燃料や、気候変動に左右されない建物への投資にも及ぶ。また、Fiat E-Ducatoと提携し、2030年までに欧州で1万4,000台の電動配送車を導入することを発表した。

 

ICEからBEVへのシフト

米国内だけでも、輸送部門の排出量の24%は中・大型車が占める。バスなど一部の輸送部門ではすでに電動化が進んでいる一方、トラック輸送では低エミッション技術の導入が遅れている。特に大型トラックの内燃機関(ICE)を二次電池式電気自動車(BEV)仕様へ移行するのは困難を極める。二次電池では十分な走行距離を確保できないうえ、油圧でごみを圧縮する特殊な仕様のごみ収集車など、一部の大型車にとって二次電池式はパワー不足である。しかし、ラストワンマイル用の配送車については、完全な電動化が可能である。

では、なぜラストワンマイル配送車は電動化が可能なのだろうか。ラストワンマイル配送では走行箇所が明確に定義されており、走行距離も50~200kmと短い場合が多く、バッテリーの能力で十分に対応できる範囲である。さらに、配送車は車庫に戻れば充電が可能であるため、市中に充電施設が無くても支障が無い。車庫で夜間充電を行えば、コストのかかる急速充電インフラが不要であるため、フリートオペレーターにとって最も経済的なソリューションでもあるのだ。

 

今後の展望

電気自動車の初期費用はICE車と比べて高くつくものの、メンテナンス費用がICE車の約6割であることを考えると、電気自動車の運用コストは安く抑えられる。また、電気代が安い夜間に充電を行えば、燃費の節約にも繋がる。政策が電動化を後押しする場合もある。例えば、オランダの都市では2025年以降、CO2排ガス配送車による配送を禁止することを決めている。企業においても、消費者が気候変動への関心を高めている中、環境に配慮しているというイメージはその企業にとって有益となる。今後、多くのラストマイル配送業者が電気自動車を導入していくことが予想され、その数はさらに増加するだろう。

 

 

引用元:
商用車・オフハイウェイ車向け電化市場分析 - バス、トラック、小型商用車 (LCV)、建設用車両、農業用車両、フォークリフトの販売 (データはICE vs. 電気、車両サブセグメント別) (gii.co.jp)
発行 Power Technology Research  出版日2021年10月1日


調査レポート販売代理店:株式会社グローバルインフォメーション

 

 

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