AIは交通をどう変えていくか―東京大学特任教授・中島秀之氏に聞く


 公立はこだて未来大学発のベンチャー企業である未来シェアが始めたSAV(注1)の乗り合いサービスが話題を集めている。配車はすべて自動でAIが行い、バス・タクシーなど車両を限定せずに利用できる新しい交通の形をつくりあげている。SAVの開発に携わり、株式会社未来シェア 取締役会長 CEO、東京大学先端人工知能学教育寄付講座特任教授である日本を代表するAIの研究者・中島秀之氏に話を聞いた。

2017/12/20

※この記事はLIGAREより提供いただき掲載しています

 

 

東京大学 先端人工知能学教育寄付講座 特任教授 中島 秀之 氏

(注1) SAV=Smart Access Vehicle。タクシー(デマンド型)と路線バス(乗合い型)の長所を融合した、ルートを固定せず需要に応じて乗合い車両を走行させるシステム

AIの側で感じさせられるのは人間のすごさ

――中島先生が考えるAIの定義を教えてください。

 AIは研究分野であって、情報技術、ITの一部です。既に完成された技術も人工知能と呼ばれていますが、それらは単なるプログラムだと考えています。AIは単純な作業ではなく、知的な処理を行う分野で、人工知能の「知能」の定義は、情報が不足している時に自らの考えで遂行できる能力です。

 40年、AIの研究をしていますが、「人間のすごさ」をとても感じます。機械が人間のように判断し行動するのは難しい。情報が足りない時でも難なく乗り切るのが人間です。今のコンピューターではできないので、情報が足りない時はこうしなさいと教えておく必要があります。

 最近話題になっているディープラーニングは、今まで学習したものから一般化して応用して、教えたこと以上のことができます。一番、衝撃的だったのはアルファ碁です。NHKの囲碁の番組で、人工知能が今までプロが打ったことのない手を打ちだして、それをプロが真似るようになったのです。完全な情報があるわけではないのに、新しいことができるようになってきています。特定の分野、例えば将棋や囲碁に限ると、人間より上手くなっています。

 AIを使わなくてもいい、いわゆるコンピュータープログラムの延長線上では、AIに近いことができるようになってきました。一番良い例がエクセルの表計算で、人間は5×5ぐらいの計算であれば容易にできますが、例えば3桁×3桁になると間違えが増えます。一方でITはすんなりやってのける。今のエクセルが、もう少し複雑な判断をするようになると、だんだんAIに近づいてきます。

 

人間の実体験による学習にはAIは勝てない

――交通の分野でAIはどのような役割を担うでしょうか。

 交通の分野では、電車のダイヤを調整するのは、コンピューターより人間の方が優れているというのですが、私はそれを疑っています。電車の事故や停電でダイヤが乱れた時は、コンピューターに任せた方が上手くいくのではないかと思っています。エクセルの延長線上で、車両の場所や目的地への到着時間を全部情報として入れておけば、いろいろ制約がある中で何をすればいいかということをコンピューターの方が上手く判断できるはずです。

 ダイヤの乱れを直す時に人間の方が優れていると言われるのは、人間はNという条件があった時に、今はどの項目を優先するべきかの判断ができるからです。例えば、時間の遅れを最小限にすればいいのか、特定の駅で留まっている人をはける方が大事なのか、といった判断ができるのが人間です。人間が臨機応変なのは、生活の中での体験に基づいて大事なことと大事ではないことを判断しているからです。例えば、会社で働く人、買い物に行く人について、人間は教えなくても知っているけれど、プログラムは電車のダイヤのことしか知りません。人間とコンピューターはそこが違います。

 

目的が人間側にある限りシンギュラリティは起こらない

――近い将来、AIは人間を脅かすような存在になるのでしょうか?

 クルマは、行きたい場所があるから乗るのであって、クルマが行き先を決めているわけではありません。クルマがAIになってもそれは変わらないと思います。自分たちの道具として、人間が欲しいからAIを作っているのです。目的が人間側にあるというのは永久的に変わらない構造だと思っています。

 都内ですべてのクルマがカーナビを使っていたとしたら、将来どのクルマがどこへ行くかは全部計算できます。そうすると、何分後にどの場所が混むのかが分かります。今のカーナビは、渋滞が起こってから知らせてくれますが、予め混みそうなところを避けて通ることができるようになります。

――AIで今の交通課題は解決しますか?

 予測は人間よりコンピューターのほうが得意です。すべてのクルマをコンピューターが集中管理するようになると、都内の交通は今より遥かにスムーズになります。全部が自動運転車になると、信号機は不要で、10センチの差があればクルマ同士が通り抜けることができます。人間にはできない使い方をコンピューターに教えて実行することで、利便性が増します。

 技術は倍々で加速しているので、社会もそれについていく必要があります。毎年速度が倍になるという意味で、シンギュラリティが始まっていると思います。みなさんが恐れている、コンピューターが人間の知能を抜くという現象は、今見えている範囲では起こらないでしょう。理由は、目的を人間が持っているからです。「その目的よりこっちのほうが良いのでは?」と言うAIを人間は作りません。人間は、自分たちのしたいことを実行するプログラムを作るのです。

法律も技術に追いつく必要がある

――自動運転車が走るのはまだまだ遠い未来に感じます。

 産業界も法律も変わらないといけなません。今、タクシーとバスがきれいに分離しているのは、要するに業界保護です。保護しているということは、業界が発展しないということです。クロネコヤマトは法律違反のようなことをあえて始めています。イノベーションです。そういう体制にならないといけないと思っています。法律が技術の後追いなのは仕方がないけれど、後追いの期間をできるだけ短くして欲しいです。

 自動運転を規制する法律をつくるのではなくて、自動運転を可能にする法律を即座に作って欲しいと思っています。アメリカではテスラなどが自動運転で走り回っています。極端に言うと、都心は自動運転車以外のクルマを乗り入れ禁止にすればいいと思っています。機械と人間の手が混在しているのが一番危険です。事故も減り、飲酒運転もなくなり、交通渋滞がなくなるでしょう。例えば、東京の山手線の中も随分変わるはずです。

 

公共交通もウーバーもAIで便利に使う

――AIによる配車が行われれば公共交通の利便性は増すのでしょうか?

 移動は目的ではなく手段であって、その上に目的があります。SAVでは、モビリティプラットホームという言い方をしています。オンデマンド型のプラットホームを開発しています。公共交通は底上げをしないといけないと思っています。行きたいのに行けない、乗りたいのに乗れないという人をできるだけ減らしていく必要があります。自家用車は利便性捨てずに、自分のクルマに乗って駐車場を探すよりも早く着くというのが理想です。自家用車のメンテナンスコストは結構高いけれど、気にかける人は少数です。利便性さえ確保すれば、一回あたりの料金は高くても、年間で自家用車を持つよりも安く済みます。

 SAVのシステムにはAIを使っています。マルチエージェントシミュレーションの技術です。今のところ、この運行をしているのは私たちだけです。ウーバーは人間が決めて行きたい場所をクルマに伝えるのに対して、SAVはリクエストを受けるためのベストな方法をAIが計算して配車を決めます。スケーラビリティがあるので、都市基盤になった時に違いが出てきます。ウーバーが敵になるのではなく、私たちのプラットホームの上で、ウーバーもタクシーも、個人のクルマも走ればいいのではないでしょうか。

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