日産・村松氏インタビュー「新たな時代のコネクティビティとは」


自動運転・モビリティサービスを提供するための新たな時代のコネクティビティ

 

 電動化や自動化、モビリティサービスへ向けた異業種連携など新たな分野への挑戦という意味で、日産自動車は最もアクティブな自動車メーカーの一つだ。電動化では2010年にいち早く量産電気自動車リーフを市販。自動化においては昨年発売したセレナで高速道路単一車線のレベル2自動運転技術を実現し、今年は新たな交通サービス基盤構築でディー・エヌ・エー(DeNA)とパートナーシップを結んだ。

 これら先進的な技術を組み合わせ、実際にユーザーにプロダクトを提供する上で今後、ますます重要な役割を果たすこととなるのが、車のコネクティビティだ。日本と米国で長年テレマティクスに携わり、現在は自動運転も含めた新たなコネクテッドサービス開発に取り組む村松寿郎氏(日産自動車コネクティドカー&サービス開発部テレマティクス開発グループ 兼 AD&ADAS先行技術開発部 HDマップ開発グループ 兼 コネクティドカー&自動運転事業本部 主管)に、業界変化に対するアプローチや現在の課題意識を聞いた。

2017/8/10

 

— 自動運転の進化に呼応してコネクテッドサービスも変化していると思います。今、どのような変化を感じていますか

村松氏: コネクテッドサービスは、自動運転より前に、車の使われ方の変化に呼応して変わってきている。カーシェアリングのような新しいモビリティサービスが出てきて、それらのサービスを提供するためにコネクティビティが必須になってきている。その後、自動運転になるともう一つ変わってくると考えている。「人のためのサービス」だったコネクティビティが「車のためのサービス」「車のためのデータ通信」という形にも変わってくる。

自動車メーカーもモビリティサービスに入ってく

日産自動車の村松寿郎氏

— 主にテレマティクスといわれていた頃はプローブやインフォテインメント周りの話が中心でしたが、カーシェアやライドシェアなどの新しいモビリティサービスに使われるコネクテッドサービスは性質が異なってきますね

村松氏: 異なっている。テレマティクスは日本ではどちらかというと情報提供とコンビニエンス・サービスが中心で、それはオーナーカーに対するサービスだった。そこにコネクティビティを使って提供されるモビリティサービスという新しいジャンルが生まれた。元は車に付随するサービスだったものが、サービスに付随するサービスになり、主と従が逆転というわけではないが対等な立場になったともいえる。

 

— 具体例は何か浮かびますか。また自動車メーカーとしてどのような対応が必要でしょうか

村松氏: 最初に思い当たるのは、カーシェアリングの伸びだ。車の稼働状況などをリアルタイムでモニタリングできていて、ユーザーに従量課金もできる。海外では、Uberのようなライドシェアリングも伸びていて、これらはすべてコネクティビティがないと成立しないサービス。自動車メーカーとして、こうしたモビリティサービス事業に入っていくかどうか、という所だが、単純な話ではないが、やはりそのモビリティサービスビジネスのほうに入っていかなきゃいけない、と考える。

 

— 「車を作って販売する」モデルから、「モビリティサービスを売る」ことに変わると、長年築いてきたビジネスモデルも変わってしまうのではないですか

村松氏: まるきり変わるという気はしていない。車がなければモビリティサービスは成立しない。誰かが車を製造して販売する必要がある。販売先がいわゆる個人ではなくモビリティサービスの事業体になる、といった可能性は確かにある。ただ、自動車会社の根幹として、車を作る、というところは残る。その上で、モビリティサービスにおいて、ビジネスモデルを変革していく。このあたりはサービス事業者とのパートナーシップを結んで進めていこうということで、DeNAとの連携もさせていただいている。

自動運転を実現するためのコネクティビティ

— 以前、村松様は自動運転時代のコネクテッドサービスは、自動運転を実現するためのもの、自動運転を使いこなすためのもの、自動運転車内でのサービス、といった大きく3種類に分けられるとおっしゃっていたと思います。それぞれについてお尋ねしていきたいのですが、自動運転を実現するためのものとして、ファームウェアのオーバー・ザ・エア(OTA)アップデートの重要性をどう考えていますか

村松氏: OTAはファームウェアに限らず重要になる。例えば、自動運転車は将来、高精度地図を使って自動運転技術を実現することになる。その高精度地図は、ある程度の周期で更新しなければならない。ユーザーの利便性を考えれば、それを現在のようにディーラーで更新するより、OTAで更新ができるほうがはるかによい。

 

— 他に、自動運転を実現するためのコネクティビティとはどのようなものでしょうか

村松氏: 新しいものを世に出していくとき、実際にそれがその市場でどう使われているかをモニターすることや、緊急時の見守りサービスのようなものも必要になると考えている。

 

— 欧州のeCallのようなものでしょうか

村松氏: eCallのようなものと言えるかというかは分からないが、システムに何らかの異常があったときに検知できるような仕組みは望ましい。少し話を戻すと、世界初の量産電気自動車リーフを市販した際、100%コネクテッドにした。モチベーションは、きっちりと見守らないといけない、ということだった。そのためテレマティクスを投入し、実際のバッテリーの状態が分かるようにした。これから先、もっと高度な自動運転技術を搭載した車を出していくときには、やはりシステムを見守ってあげることが必要になる。また、クルマがどう使われているかはやはり知っておいたほうがよい。

サイバーセキュリティは「競争領域ではない」

— 自動運転を使いこなすためのコネクティビティとは何でしょうか

村松氏: ロボットタクシーが一番分かりやすい例。運転手がいないため、何かしらのリモートでコマンドを送ることが必要になる。CES2017でSAM(Seamless Autonomous Mobility)という仕組みを発表したが、これも車のリモート監視。無人の自動運転車が判断ができないような状況に陥ったときに、それをリモートで判断させてあげる。例えば、車が地図に従って走っているとき、地図に載っていない障害物があって避けなければならないが、そのルートはもともと車が持っておらず判断できない、といった場合。こうした状況を監視センターで見守り、リモートで新しいパスを引いてあげる。そうすると、車はその新しく引かれたパスの上を走れる。こうしたことが、自動運転車を使いこなすための技術の一つと考えている。

 

— 具体的に取り組みを進めていますか

村松氏: 弊社の追浜工場の中でパイロット的に取り組んでいる。一例をあげると、2台のドライバーレスカーが交差点で出会い「このままだとぶつかる可能性がある」という場合、両方とも止まってしまう。停止後にどちらが先に動くか、人間なら状況から判断できることが多いが、機械はそうした判断ができない場合がある。そうした場合に「こちらが先であなたは後」といった判断をリモートで送る。こうしたリモートサポートで完全自動運転を使いこなせるようになる。

 

— セキュリティなど難しい点も多いですね

村松氏: いわゆるサイバーセキュリティは非常に大切。終わることのない戦い。車のソフトウェアがハッキングされれば大変なことになる。IT業界においては、今は分からなくても後からセキュリティホールがあることが分かった、ということはよくある。車でもそうしたことが起こる可能性はあると考えていて、クリティカルなところを堅牢にすることが重要。

 

— サイバーセキュリティは協調領域という認識ですか

村松氏: サイバーセキュリティは「競争領域ではない」といったほうが正しいと思う。具体的に話すと、例えばサイバーセキュリティ攻撃事例を共有する米国の「Auto-ISAC」。弊社も入っているが、ここでは何かしらサイバーセキュリティを脅かす事例があった場合に「このようなインシデントがあった」ということを報告し、皆でその情報をシェアする、というところが一番のメリット。自社で起こったことだけでなく他社で起こったサイバーセキュリティインシデントをきちんとフォローできる。受け取った側で、そうした事例が自社内で実際にあるのかチェックして対応するといったことは個社がやることになる。

キーワードは「パーソナライズド・サービス」

— 近い将来、レベル5の自動運転を予測すると、車内でのコネクテッドサービスのためには何を準備すべきですか

村松氏: 単純化すると、完全自動運転になって運転行為から解放されてしまうと、「あなたはその時間をどう過ごしますか?」という問いに尽きる。弊社を含め各社ともいろいろなコンセプトカーを出していて、リビングルームで乗員同士の会話を楽しむ形もあれば、一人でビデオ・エンターテインメントを楽しむという形もある。寝ちゃう人もいるかもしれないし、オフィス環境にして移動中にメールを打ちたい、という人たちもいるかもしれない。さまざまなニーズを持つ人たちに対して、車がどう機能的になれるか、という点を考えないといけない。

 

— そうした点では、ユーザーの動向を捉えていくことも重要な仕事になりますね。しかしユーザーに尋ねても、実物の自動運転車が出てない状況では、なかなかアイデアも出ないのではないでしょうか

村松氏: その点は長年、マーケティングのジレンマ。ユーザーマーケティングをやればやるほど、今のニーズは分かるけど将来のニーズは分からなくなってしまうことがある。将来の姿はこちらから示してあげるべき、ということもあって自動車メーカーはコンセプトカーを出して提案するという作業をしている。

 

— 車の進化によってユーザーの享受する最も大きなベネフィットは何でしょうか

村松氏: 間違いなく、それは人それぞれ、ということになってくる。若者の車離れが叫ばれて久しいが、免許すら取らない大学生も増えている。そういう人たちにとっての車の価値は、どこかに連れていってくれる移動手段。一方で自分の購入した車に愛着を持って接する人たちも、走りを楽しむという人もいる。多様化したニーズに応えるため、キーワードとなってくるのは「パーソナライズド・サービス」だと考えている。一方で、これは自動車会社が単独で提供することは、まず不可能だとも思う。

 

— それは従来型のインフォテインメントのパーソナライズドだけではなく、モビリティサービスをどう提供するのか、を含めたパーソナライズドですね

村松氏: モビリティサービスとして提供するのか、それとも従来のセーフティアンドセキュリティ、インフォテインメントのサービスを提供するのか、それとも新しいジャンルの車に対しての新しいジャンルのサービスを提供するのか。今、分岐点に来ていると思う。

 

— そのあたり、各自動車メーカーの特徴が出てくるところかと思いますが、日産自動車としてはどのような強みを生かして、どのようなサービスを提供していく、といったアイデンティティのようなものはありますか

村松氏: やはり日産の強みというのは量産型の電気自動車(EV)を真っ先に世の中に出したということ。さらに現在は自動運転の技術で他社に先んじていると考えている。EVと自動運転技術、これが強みだとすれば、そこを全面的にプッシュしていく形になる。

これからのコネクテッドカー・ビジネスモデル

 — 従来からコネクテッドサービス自体としては、通信料の課題もあり、なかなかビジネスとしては難しい部分もあったと思いますが、今後は変わってくるでしょうか。自動車メーカーとしてどうベネフィットを得るかイメージはありますか

村松氏: コネクテッドサービスそのものではなく、データの利活用というところが、お客様にとってだけでなく企業にとってもベネフィットになる。各社それぞれだと思うが、例えばワランティコストの削減ということが挙げられる。車に通信機をつけて何が重要かというと、データを集められること。データを分析して品質の改善や、クルマの使われ方を理解する。これが重要なファクター。お客様のベネフィットとは違った企業のベネフィットがデータに入っている。その先に「データを売る」というビジネスがあるかもしれない。例えば、保険会社と提携して、走行分に応じて保険料を支払う、ペイ・アズ・ユー・ドライブ(PAYD)のサービスを提供しているとする。PAYD保険そのものは、保険会社とお客さまの間の保険契約。お客様の合意のもと、そのサービスを実現するために車から収集したデータを保険会社にお渡しする。そこで、いくばくかの利益を上げる、というようなモデルが少しずつできてきている。

 

— なるほど、保険は分かりやすいです。他にモデルとして何かありますか

村松氏: まだそこは企業秘密(笑)。ただ、他の部分でもサービスが広がってくる、というイメージはある。

 

— そのようなビジネスモデルが成り立てば、コネクテッドサービスが広がっても、サービスコストはお客様の支払いにそれほど上乗せされないですね

村松氏: そのようにしないと、お客様は車を買ってくれないから。ただ、誤解してはいけないのは、お客様は「何でもタダだ」と思っているわけではないと思っていて。お客様も「お金を払う価値がある」と思ったらサービスに対して支払いをしてくれる。だとすれば我々は、お金を払ってくれる価値のあるもの、価値のあるサービスを提供するべき。すると、車に付加価値がつく。その付加価値に対してお客さんが喜んでお金を払ってくれれば、それに越したことはない。

コネクティビティ進化の未来

— 前にお話した際に、自動運転車をコネクティビティを前提に作るのは難しいが、自動走行やドライバーの安全という部分をコネクティビティでサポートするということは可能、とおっしゃっていました。その点で、今後重要な技術要素は何になると考えていますか

村松氏: 技術要素というと難しいが、無線通信はつながらない時もあるため、常につながっている、ということを前提にした車作りは難しい。ただ、つながっていれば、ベネフィットはある。期待も込めて言うと、米国のNHTSA(米運輸省高速道路交通安全局)が法制化しようとしているビークル・トゥ・ビークル(V2V)。こうした新しいコネクティビティはドライバーの安全を支援できる。

 

— 米国はV2Vを義務化していこうという方向と思いますが、それはDSRC(狭域通信)ベースだったと思いますが、セルラーV2Xも最近は注目されています

村松氏: V2Vを義務化したいという案が出て、パブリックコメントの募集を終え、これから実際に法案を揉んで決めて、という作業になる。NHTSAの案文は最初はDSRCと言っているが、オルタナティブも受け付けるような記載もあり、パブリックコメントを見ると、DSRCで行くべきだというコメントと、オルタナティブいわゆるセルラーV2Xもちゃんと考えるべきというコメントが散見される。通信システムの標準化を推進する3GPPのRelease 14では、セルラーV2Xの仕様が織り込まれたが、そこに織り込まれた仕様は、ほぼ今のDSRCと同様と聞いている。同様なら枯れた技術を使ったほうが我々としては安全。だが、それを上回る技術であれば興味がある。次のRelease 15から16で出てくる5GのセルラーV2Xがどうなるかが、今後の技術の分かれ目と考えている。

 

— 他にも、グローバルサービスを展開する上での難しさ、コンシューマエレクトロニクスと車の使用サイクルの違いなど、乗り越えていくべき課題は多いですね

村松氏: グローバルサービスに関しては、それぞれの国の事情に合わせ法規制や認証に合わせて進めていくしかない。例えば先ほど話した、車両緊急通報システムにしても欧州のeCall、ロシアのERA-GLONASS、今この二つが明らかになっているが、仕様が少しずつ違う。じゃあ日本はどうなるかというと、日本のヘルプネットの仕様と欧州eCallの仕様も違ってくるはず。似て非なる仕様の同じ車両緊急通報システムに対応していかなければならない、という難しさもある。コンシューマエレクトロニクスと車のサイクルの違いも変わることはないため、できるだけ車側のシステムに拡張性、フレキシビリティを持たせ、素早く適応できる仕組みを導入していくしかない。そこでのセキュリティは大前提だ。

 

— コネクティビティの進化による将来像をどう描いていらっしゃいますか

村松氏: 今の社会的な課題を解いていこうとすると、やはり電動化と自動化、知能化を進めていくしかない。日産として電気自動車と自動運転を起点にしてサービスを展開していく。じゃあ、それらの技術を生かすサービスをどのようにして提供するかというと、そこをコネクテッドで提供する。それぞれの技術は単独で成立するわけではなく、それをどうつなぎ、組み合わせるかが今後、ますます重要になってくると考えている。

(聞き手: 友成 匡秀)

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