企業活動とSDGs


現代ほどイノベーションが求められている時代はないだろう。特に100年に一度の大変革期とされる自動車業界では新たなモビリティ創造のための模索が続き、その未知なる世界観や、これまでにない概念を表す言葉も次々と誕生している。このシリーズではイノベーションの扉を開くヒントになりそうな、新しいビジネス用語を解説していきたい。

 

Date:2019/3/28
Text:株式会社サイエンスデザイン 林愛子

 

第2回:企業活動とSDGs

 

 2015年9月に国際連合(国連)が策定した、2016年から2030年をターゲットとする「持続可能な開発目標(SDGs/エスディージーズ)」。2001年に始まったミレニアム開発目標(MDGs)の後継に位置づけられるものだが、その内容は以下の点において大きく異なる。

1、目標の拡大

MDGsでは貧困撲滅やHIV等の疾病の蔓延防止など主に発展途上国を対象とする8つの目標を掲げていたが、SDGsでは持続可能な世界を実現するために必要な17のゴールと169のターゲットを定めた。

2、活動主体の拡大

MDGsはODA実施機関やNGOなどが推進したが、SDGsでは企業にも参画を促す。支援や寄附といった一方通行の取り組みではなく、企業活動として持続的に社会課題の解決に取り組むことが求められている。

持続可能な開発目標「SDGs」

 

 SDGsが掲げる17のゴールを見ていくと、「目標1.貧困をなくそう」のように途上国がメインターゲットのゴールがある一方で、「目標7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「目標9.産業と技術革新の基盤をつくろう」のように、我々が日常的に取り組んでいるゴールも含まれる。「目標5.ジェンダー平等を実現しよう」「目標8.働きがいも経済成長も」に至っては、我が国は後進国の可能性さえある。つまり、17のゴールに対してはどの国も先進国であり途上国でもあるので、自分事として目標達成を目指そうというわけだ。

 国連の活動と言うと、従来のイメージでは途上国支援の色合いが強く、産業界のなかでも特に自動車業界にとっては少々縁遠かったかもしれない。しかし、SDGs策定から3年以上が過ぎ、企業活動へ取り入れる事例が増えてきたこともあって関心が高まっている。Googleトレンドで2015年9月から2019年3月までの「SDGs」の検索結果を調べると、この半年ほどの間で急激に検索数が伸びていることがよく分かる。

Googleトレンドによる「SDGs」の検索結果。右側の急激な落ち込みは年末年始。SDGsがビジネス用語として検索されている傾向が見て取れる

 

 SDGsがユニークなのは17のゴールと169のターゲットを明示しながらも、具体的なプランニングを主体者に委ねている点だ。たとえば、SDGsに早期から取り組むトヨタは「Sustainability Data Book 2018」において、トヨタ環境チャレンジ2050に関連する項目として「目標7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「目標12.つくる責任、つかう責任」などを挙げている。さらに、自社ビジョンと親和性の高いテーマとして「交通死傷者低減」「持続可能な街づくりやモビリティ向上」「気候変動への対応」を掲げた。これらはそれぞれ「目標3.すべての人に健康と福祉を」「目標11.住み続けられるまちづくりを」「目標13.気候変動に具体的な対策を」に相当する。

 日本政府も17のゴールをすべて均等に実施するとは言っておらず、我が国が積極的に取り組む優先分野としてSDGsを8つの分野に再編している。昨年末、首相を本部長とするSDGs推進本部は「SDGsアクションプラン2019」を発表した。そこには自動車関連として「「Connected Industries」の推進/自動走行・モビリティサービス」「MaaSなど新たなモビリティサービスの推進」「スマートシティの推進」などが盛り込まれている。

 このように、17のゴールと169のターゲットから自社に合うものをピックアップし、日々の事業活動と無理なく結び付けること、あるいは再編しながら自社の活動に適合させていくことがSDGsに取り組むコツだと言える。

 いまはまだ大企業や意識の高い企業だけが取り組んでいるように見えるかもしれないが、これから活動の輪が広がることは間違いない。既に経団連や商工会といった団体はSDGsへの対応を宣言しており、加盟企業は何かしらの対応を進めていかざるを得ないだろう。また、先述の「SDGsアクションプラン2019」には「中小企業におけるSDGsの取組強化」が明記されており、「Society5.0」「STI(科学技術イノベーション)」などと結びつけての推進策が示されている。

 SDGsは義務ではないので、取り組まなくてもペナルティはないが、これからはSDGsに取り組む企業が積極的に選ばれる可能性はある。たとえば、「目標10.人や国の不平等をなくそう」のなかでも、人種差別については取引先を選ぶ際の基準のひとつとなりつつある。また、B2Cでも、消費者はオーガニックやFSC認証などと同じ感覚で、SDGsを基準に選ぶようになるかもしれない。SDGsのアイコンがこれほどまでにキャッチーなのは、そういった広がりを前提にデザインしているからであろう。SDGsは「地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)」と誓うが、裏を返せば、誰一人として部外者を出さない(全員がSDGsに関係する)ということだ。

 日本政府は6月のG20大阪サミットを皮切りに、世界に向けて日本のSDGsの取組みを積極的に発信していくとしている。2020年は東京オリンピック・パラリンピック、2025年には大阪・関西万博が控えている。これから2030年に向けて、SDGsの話題はますます増えていくだろう。

 

 

【参考】

・外務省「SDGsに対する日本の取組み」(特設ページ)

・首相官房「SDGsアクションプラン2019」(SDGs推進本部)

・トヨタ自動車「Sustainability Data Book 2018

・国連「持続可能な開発目標(SDGs)-事実と数字

 

※この記事は掲載日時点での情報をもとに作成しています。

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