[コラム] 自動車整備士の未来図は何色? <自動運転とソーシャルデザイン>


 科学技術を社会に生かすにはデザイン力が必要。自動運転はいかにして社会に豊かさをもたらすのか、技術やサービスの観点から未来を考えていきます。

2017/9/3

株式会社サイエンスデザイン代表
林 愛子

トヨタ東京自動車大学校の森修一氏

自動運転はブームで終わらない

 自動運転は“電化”ありきの技術だ。クルマが人間に代わってセンサ等で環境を把握し、コンピュータで判断・制御するのだから、車両の電装化、電動化、電脳化は必然だと言える。

 電化と聞くと、EVを想起するかもしれない。EVは何度もブームの終焉を経験してきた。その狂乱と落胆の歴史を引き合いに「自動運転もEVみたいにブームで終わるんじゃないの?」と考える人もいるようだが、EVと自動運転には決定的な違いがある。

 過去のEVブームは資源枯渇や大気汚染などの環境問題を背景に起こり、社会に対してゼロエミッションという価値を提案したが、普及には至らなかった。走行性能やパッケージなどに犠牲が多く、ユーザーの心をつかむことが出来なかったのである

 それに対して、自動運転技術はユーザーに明確な価値をもたらす。衝突回避の自動ブレーキや追従走行を行うクルーズコントロールなどは既に市場の評価を得ている。SF映画のような完全自動運転の実現はまだ先の話で、当面は一部機能の自動化に留まるが、ユーザーは便利さや快適さを実感。社会もまた交通事故低減などの恩恵を受けられる。

 EVは既存のクルマを代替するシナリオだったが、自動運転は既存のクルマを徐々に進化させるシナリオだ。今や生活に欠かせないスマートフォンも、電話の代替として普及したわけではない。黒電話からプッシュホン、移動電話、携帯電話という変遷があったからこそ、技術がこなれて製品が磨かれ、社会にも新しいコンセプトを受容する素地が仕上がっていったのである。

技術が進化すれば、修理の概念も変わる?

 技術の進化は業界全体に影響を及ぼす。カメラのデジタル化はカメラメーカーだけでなく、フィルムメーカー、カメラ量販店、現像・プリントショップなどにも変化を要求した。それに対応できなかった企業もあれば、富士フィルムのように華麗な転身を果たした例もある。
自動車業界も新しい技術により、さまざまな変化が起こると予測される。生産・販売といったフェーズはもちろんのこと、整備や点検についても変わるだろう。

 技術が変われば、整備に必要な知識も変わる。卑近な例で言えば、パワーウインドウが動かなくなったとき。原因がスイッチなのかワイヤなのか機械的な機構なのかを同定することが、修理の第一歩だ。電気系トラブルは機械系と違って目に見える変化や異音が起こりにくいため、専門知識なくしては原因の特定さえもできない。

 しかも、電化するほどに、内部機構は複雑化する。かつてのブラウン管テレビは故障した場合、自分で部品交換やハンダ付けで修理することも出来たが、現在はメーカーや専門店に依頼するのが基本だ。

 クルマも同様で、進化するほどに内部機構のブラックボックス化が進む。既に、ハイブリッド車ではハイブリッドユニットに何かしらの不具合が起きたら箱を開けることをせず、ユニットを丸ごと交換しているという。

 また、電脳化が進むほどに、ソフトウェアの更新で対応できることも増えていく。ソフト更新はテスラの戦略として話題になった。クルマは扱い方を誤れば人命を奪いかねないがゆえに慎重論が根強く、解決すべき課題があることも事実だが、ゆくゆくはソフト更新が当たり前になるだろう。

 さらに、修理の概念が変わる可能性もある。テレビだけでなく電化製品は技術が成熟したことで昔ほど故障しなくなった。製品価格が下がったこともあって、相対的に修理費用が高くなっている。衣料品や家具なども、実用品レベルのものであれば、修理しながら使い続けるより、買い替える方が経済合理性に適うことが多い。

 さすがにクルマは頻繁に買い替えることは難しいだろうが、昔ほど故障しなくなっていることも事実だ。修理に対する概念はこれから大いに変化すると考えられる。

トヨタ東京自動車大学校に「スマートモビリティ科」

 自動車整備士を養成するトヨタ東京自動車大学校では時代の変化を先取りし、平成26年に全国初の「スマートモビリティ科」を設置した。

 この科ではハイブリッド車やEV、FCVをはじめとするいわゆるスマートモビリティを扱うために必要な電気関連の科目を強化したカリキュラムを用意。即戦力たる人材を育てるために、業界の第一線で活躍する人材を外部講師として招聘することもある。

 スマートモビリティ科設立に携わった同校の森修一氏は「これからは自動運転システムやセンサだけでなく、通信についても教育する必要が出てくるでしょう。進化が早い領域だけに、カリキュラムは試行錯誤の連続ですが、スマートモビリティの整備に対するニーズは増すばかりですから、現場で活躍できる人材を世に送り出していきたい」と語る。

 そもそも自動車整備士は日本特有の車検・点検制度を背景に設けられた資格だ。クルマが飛躍的な進化を遂げれば、車検整備や点検整備の在り方、かかる法律が改正される可能性がある。そうなると自動車整備士が担う仕事も変わらざるを得ない。ディーラーや整備工場は遠くない将来、新しいビジネスに挑戦することになるだろう。一方で、クラシックカーを愛好するように、完全自動運転車が普及しても、自分で運転できるクルマを愛する層は存在し続ける。この領域に特化したスーパーメカニックは将来的にもニーズがあるだろう。

 新しい技術によって激変する市場もあれば、変化しない市場もある。その見極めこそが重要なのかもしれない。

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